気候・環境

2024.06.11 11:30

「船舶からの汚染物質規制」で逆に気候変動が悪化? 物議を醸すNASAの研究結果

ウィルコックスは、「いくつかの数学的な問題」に関して懸念を示した。たとえば計算手法について、硫黄排出量の影響を二重に計算している可能性などを挙げている。ウィルコックスはさらに、論文で使用された表現についても警鐘を鳴らしている。「これを、意図せざるジオ・エンジニアリングと表現していることと、影響を過大評価している可能性のある数値を提示していることが、将来的な排出量削減を目的とした政策について、見当違いの思い込みを招く可能性がある」

さらに、気候科学者ジーク・ハウスファザーは、ユアンをはじめとする科学者チームが知見の解釈を誤った理由を詳しく分析し、それをソーシャルメディア「Bluesky」に投稿した。同氏は、海は地球の表面積の71%を占めているものの、海運規制が陸地に及ぼす影響はごくわずかなはずであり、全体的な温暖化は、論文で示されたものより少なくなるだろうと指摘している。

ハウスファザーはさらに、研究者が用いたエネルギーバランスモデル(EBM)には、「海洋が実際に吸収する熱が反映されていない。また、実際の気候モデルではどれも、平衡時間はそれほどまでに速くない」と述べている。

第二の論点、つまり、地球を冷却するための気候工学的な取り組みについては、多くの著名な気候科学者が公然と異議を唱えている。2021年以降は、「太陽地球工学に関する不使用協定(Solar Geoengineering Non-Use Agreement)」が研究者をとりまとめ、彼らが呼ぶところの「入射する太陽光を地球規模で意図的に管理しようとする、リスキーで、未知な領域が多い技術」の開発に反対している。

とはいえ、「終端ショック」を論じたこの研究に、肯定的な反応を示す研究者も少なくない。レディング大学の気候科学者リチャード・アランは、この研究は「最終結論ではないし、海洋の清浄化による影響の強さについては、さまざまな推定がなされている。(中略)今回の新たな知見は、進行する地球温暖化のそもそもの原因である温室効果ガスの排出量を、大規模かつすみやかに削減することがどれほど急がれているか、その緊急性をいっそう高めるものだ」と語った。

ライプツィヒ大学の気候科学者カルステン・ハウシュタインは、この研究を高く評価し、「世界の放射平衡がこのところとみにバランスを失いつつある理由を理解する上で、この論文は役立つ」と述べた。また、「人為的な温暖化はすでに数十年前から、懸念されるペースで進んできた。近ごろの記録的な気温がそれよりもさらに懸念すべきものなのかどうかは、2024年中に判明するだろう」と続けた。

専門家たちは2024年5月、地球が11カ月連続で記録的な暑さに見舞われたと発表した。4月の世界平均気温は、観測史上最高となった。かつてないほどのペースで温暖化が進んでいるのは、人間が放出した温室効果ガスが蓄積されたためだということは、科学者たちのコンセンサスとなっている。

forbes.com 原文

翻訳=遠藤康子/ガリレオ

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