分割創業から8年、異例の上場
サフラン社と長期契約を結んだ後、森西がAeroEdgeを設立するまでに紆余曲折があった。タービンに100枚超取り付けられるブレードは投資に応じた収益が期待されたが、将来のリスクに不安を抱える会社側は二の足を踏み、なかなか生産段階へと進まない。「社内ではリスクの指摘はあっても、未来の可能性を積極的に見ようとする声は少なかった」。選択肢は、自ら会社を立ち上げることしかなかった。課題は2つあった。1つは体制の両輪となる現場と経営陣。サフラン社との長期契約に対応する技術者集団は、まず菊地歯車の社内公募で確保。「私がつくる会社に来ませんか、と呼びかけると、後輩たちが手を挙げてくれた」。新たな経営陣は技術開発、財務会計などスペシャリストを外部から招いた。
もう1つの課題は資金面だ。折しも国の経済政策と並行して航空宇宙分野への投資機運が高まり、日本政策投資銀行、豊田通商、足利銀行などから第三者割当増資などで数十億円を調達。菊地歯車からは工場用地の現物出資を受けて生産ラインを新設、新規事業を見据えた設備投資を進めた。現在はタービンブレードの量産に加えて、最新の3Dプリンターを活用し、世界初のチタンアルミ合金の補修ビジネスにも乗り出そうとしている。
AeroEdgeは東京証券取引所グロース市場に23年7月、製造業では珍しい新規上場を果たし、初日に買い注文が殺到。取引が成立しないほど注目を集めた。
受注減となったコロナ禍の期間には「ピンチをチャンスに」という森西の号令で、トヨタ生産方式の改善を浸透させた。指揮を執った取締役兼執行役員COO/CTOの水田和裕は「付加価値の高い技術提案を継続するベースはできた。グローバル企業と対等にビジネスを展開したい」と意気込み、航空産業にとどまらず、AIを活用した自動化やロボット、医療、宇宙分野などで新規事業を見据える。
「旅客機では最も付加価値が高いエンジンでビジネスを取った。より軽量化、耐熱性が求められ、先端素材や新技術が生まれやすい新モビリティや宇宙分野も視野に入れている」。世界を驚かせる挑戦で日本のローカルに希望の灯をともす。その近未来像は、経営者、技術者として組織を率いる森西の大きな夢とともにある。
森西 淳◎AeroEdge代表取締役社長兼執行役員CEO。1967年、横浜市生まれ。高校中退後、23歳のときにものづくりに憧れて町工場で働き始め、94年、菊地歯車に転職。金属加工技術者として頭角を現し、航空宇宙部門の立ち上げを主導。2015年9月、AeroEdgeを分割創業した。