銅と組み合わせて青銅の原料として5000年以上使用されてきたスズは、時代遅れの鉱物という印象のせいで見過ごされがちだが、電子機器のはんだや太陽光パネル、電池の保護層など、さまざまな技術に欠かせない金属として復活しつつある。
スズは比較的希少性が高く、世界全体での年間生産量は約38万トンと、銅の2200万トンの数分の1に過ぎない。銅の使用量がトン単位で表されるのに対し、スズはオンス単位で、ほんの少し加えるだけでさまざまな用途に使えることから、料理用語を用いて「スパイスの素」とも呼ばれている。
スズの主要生産国は、中国、ミャンマー、インドネシア、ボリビア、ペルー、マレーシアと、世界でもほんの一握りの国に限られている。生産量が比較的少ないため、供給不足に陥ると価格が急騰することがある。
ミャンマーとインドネシアは、自国産スズの大半を中国向けに輸出している。つまり、電子工業や新興技術にとって重要とされる他の多くの金属と変わらないというのが、スズ市場の現実だ。なぜなら中国が主導権を握っているからだ。
2020~22年にかけて新型コロナウイルスの世界的な大流行に続いてロシアがウクライナに侵攻したことで、重要な金属でありながら生産基盤が小さいスズの価格は210%上昇した。
価格の高騰と下落の繰り返し
1トン当たり1万5000ドル(約232万5000円)前後だったスズは4万8000ドル(約743万9000円)まで急騰し、1万8000ドル(約278万9000円)に戻った後、直近では3万4500ドル(約534万6000円)まで再び上昇している。直近のスズ価格上昇を受け、英南西部コーンウォール地方でかつて盛んだったスズ鉱山の再稼働計画に投資家の関心が集まっている。同地方では、カナダの探鉱企業コーニッシュ・メタルズが、1998年に閉山したサウスクロフティー鉱山の再開発に取り組んでいる。同鉱山では過去400年間にわたってスズが生産されていた。
スズ市場の鍵を握っているのは、分かりやすい需要と供給の法則だけでなく、地政学だ。1985年に国際スズ評議会(ITC)と呼ばれる生産者カルテルが価格をつり上げようとして崩壊したような、あからさまな市場操作もある。これにより、ロンドン金属取引所とスズ取引を行っていた銀行の評判が傷つけられた。こうした銀行は、公開取引でスズ価格が下落していても、ITCは「固定」価格を維持できると信じていた。スズ市場が崩壊しかけたことで、スズに対する見方が大きく変わり、現在も疑いの目で見続けている投資家もいる。
中国産の金属は主に自国で消費されており、ミャンマーの大規模なマンモー鉱山産のスズも中国に輸出されていた。だが、同鉱山は中国との国境にある反政府勢力が支配するミャンマー北東部シャン州ワ自治管区にあるため、現在は中国には流入していない。政府の採掘認可の遅れにより、今年に入って中断されたインドネシア産金属の供給を巡る不透明感も、スズ市場の緊張に拍車を掛けている。
供給不安
供給不安により、スズの主な消費先になることが見込まれる電子業界からの需要増の影響が悪化している。鉱物情報コンサルタント会社BMIは、スズ価格は上昇を続け、2033年には1トン当たり3万7000ドル(約573万円)に達する可能性があるとしている。だが、旺盛な需要に供給の停止がぶつかるとスズ価格が急騰するというこれまでの経緯を考えると、この価格見通しは保守的であることが分かるだろう。(forbes.com 原文)