冒険心旺盛な元パン職人のエリクソンがクリフ・バーを思いついたのは1990年のことだ。スイスで開催された約280キロメートルを走行する自転車ロードレースに参加した時、おいしいエナジーバーがないことに気づいた。その2年後、エリクソンはクリフ・バー(83歳で亡くなった父親の名前、クリフにちなんで命名)を立ち上げた。かつてジャズダンサーで国立公園職員だった妻のクロフォードは、1984年に初期の従業員の一人としてクリフに入社。2人は1994年に結婚し、最終的にクロフォードは共同最高経営責任者(CEO)としてエリクソンと共に会社を経営した。
エリクソンは2000年に米食品メーカーのクエーカーオーツ・カンパニーから提示された1億2000万ドル(約188億円)での買収提案を拒否した。そして何年もの間、会社は売却しないと主張したが、その後チョコレートのキャドバリーやクッキーのオレオなどのブランドを持つモンデリーズに29億ドル(約4540億円)で売却することに合意した。
エリクソンとクロフォードはクリフ・バーの株式の80%を所有しており、フォーブスの推定では2022年8月の取引完了時に税引き後で15億ドル(約2350億円)強を得たとみられる。残り20%の株式は従業員持ち株制度を通じて従業員が所有していたが、前年のリストラで勤続年数の長い多くの従業員が現金化できなかったため、売却の際に争点となった。
最近公表された税務申告書で、エリクソンとクロフォードが増えた資産の一部をどこに移したかが明らかになった。夫妻は会社を売却した年に5億5500万ドル(約870億円)を慈善財団クリフ・ファミリー財団に寄付した。この額は夫妻の総資産の3分の1強に相当する。フォーブスの推定では寄付前の総資産は16億ドル(約2510億円)だった。寄付のうち約3億2000万ドル(約500億円)は「市場性のある有価証券」(つまり株式)とされ、夫妻から直接譲られた。残りは夫妻がカリフォルニアのナパバレーに所有するクリフ・ファミリー・ワイナリーと住所を同じくする2つの法人からの寄付だ。
この寄付によってクリフ財団の資産は、51万ドル(約8000万円)だったのが2022年末には5億5100万ドル(約860億円)へと大幅に増えた。米内国歳入庁が寄付を行う財団に義務付けているように、同財団が資産の5%にあたる額を寄付するとすれば、寄付額は2022年の400万ドル(約6億円)から2500万ドル(約39億円)程度に増加するはずだ。会社の売却以降、ひっそりと過ごしている夫妻と同財団にフォーブスは複数回コメントを求めたが、回答は得られなかった。