テクノロジー

2024.05.20 10:45

SXSWが「信者」を抱える超巨大イベントに成長した理由

筆者は音楽イベントにおいて「使わないけど記念に」と考えて購入した経験が何度もある。ところが、SXSWのグッズは普段使いできるデザインが多い。事実、筆者は購入したTシャツやショートパンツを会期中に着用し、そして帰国した後も愛用している。他の日本人参加者にも尋ねたが、皆普段使いしているとのことだった。

Tシャツは普段使いもできるデザインだ

Tシャツは普段使いもできるデザインだ

「信者」を獲得したSXSW

現地参加している時から、筆者はSXSWが熱狂的なファンを抱えている点に注目していた。SXSWは「信者」を抱える「カルトブランド」といえる。イベントとしては珍しい。なぜこんなにも愛される存在となったのか。

彼らの成功は、カルトブランディングの枠組みで説明できる。カルトブランディングにおいて最も重要なのは、ブランドの文化を守り、顧客のエンゲージメントを高め続けることだ。文化とエンゲージメントは両輪であり、どちらか一方がおろそかになればファンは離れてしまう。

SXSWの文化の最たるものが、オースティン市内でよく目にする「Keep Austin Weird」というキャッチフレーズだと筆者は考える。直訳すると「奇妙なオースティンであり続けよう」となる。意訳すると「尖った存在のオースティンであり続けよう」となろうか。

ダウンタウンのさまざまな場所で「Keep Austin Weird」のフレーズを目にする

ダウンタウンのさまざまな場所で「Keep Austin Weird」のフレーズを目にする

もう一つの文化は、クリエイターを大切にする姿勢である。XRコンテンツや映画コンテンツといった作品を発表する機会が豊富だ。また、メイン会場では、自作のポスターなどを販売するデザイナーらがブースを並べる。

会場で展示販売されているクリエイターの作品

会場で展示販売されているクリエイターの作品

イベントとして尖ったポジショニングを意識し、かつクリエイター中心の企画を多数用意している。これがSXSWの吸引力となっている。

映画作品のポスター

映画作品のポスター

カルトブランディングでもう一つ大切な、顧客のエンゲージメントを高め続ける仕組みは、本稿で詳しく説明してきた通りだ。特に、尖った人々とのネットワーキングは、毎年参加する動機となるし、イベントに対する愛着もわく。

カルトブランドの信者は、「非合理的な忠誠心」を示す。具体的には、金銭的な対価をもらってないにもかかわらず、自らブランドとの関わりを内外に示す行為だ。SXSWの信者らは、地元に戻った後も公式グッズに身を包み、SXSWのことを喜んで宣伝してくれる。ブランディングで重要な「口コミ」が自然発生するわけだ。

日本でも都市型のイベントが増えている。ただ、信者を獲得できているかというと、必ずしもそうではないと思う。まずイベントの文化を明確にし、その上で顧客が求めるものに応え、エンゲージメントを高め続ける。そうすれば、熱狂的なファンが生まれ、長く愛されるイベントとなるだろう。イベント関係者の方々に、SXSWの取り組みを参考にしていただけたら幸いである。

文・写真=田中森士

タグ:

連載

SXSW report

ForbesBrandVoice

人気記事