一方で、生成AIやロボットなど、近年のテクノロジーの進化によって、人間を中心とした議論の前提そのものが揺らいでいる。そこで今回、人間が非人間的な存在と共存する「ポスト・ヒューマニズム時代」という視点にたち、キャリアの専門から遠い分野で活躍する6人の識者への取材を通じて、未来の働く意味や、人間に求められる役割を考察した。
人類史における革命「魂レボリューション」とは
バーチャル美少女ねむ「バーチャル美少女ねむ」は、「バーチャルでなりたい自分になる」をテーマに2017年から活動している自称・世界最古の個人VTuberだ。ねむの「なかの人」は、昼間は一般の会社員として働き、仕事以外の時間はメタバース空間で活動している。メタバース文化のエバンジェリストとして、国連主催の会議「インターネット・ガバナンス・フォーラム 京都2023」では英語でスピーチを行った。
メタバースが我々にもたらした3つの解放。それは「移動」「場所」「アイデンティティ」、そして「クリエイティビティ」の限界からの解放だ。特に彼女が「人類史における革命」だと指摘する「アイデンティティからの解放」を紐解いてみたい。メタバースで他人を認識する要素は、名前・見た目・声の3つだ。ねむはそれらを現実とは異なるものに変えることで、アイデンティティをコスプレしている。ねむをはじめ、メタバースの世界では、現実世界の男性が女性アバターを使用していることが多い。それは交流がしやすかったり、話しかけてもらえやすかったりと、コミュニケーション上の利点が少なくないからだという。
「今後、数値化できるものはすべてAIがやってくれる世の中になるでしょう。そのときに人間に残された仕事は、信頼やコミュニケーション、そして人と人とのつながりをつくること」とねむは話す。メタバースのなかでは、地球の裏側にいようが、誰とでも瞬時にその距離を縮めることができる。「だからここは心と心のやり取りに適した空間なんです。取り繕うことはもはや意味をなさず、自身がありたい姿のままで、自己肯定感が満たされ、互いに褒めあえる」。
すなわちメタバースをねむは「魂のコミュニケーションが可能になる新しい職場」だと言う。そこで生きていくうえでのヒントを教えてくれた。「自身の本質と向き合い、それを磨き続けることです」。