働き方

2024.05.20 14:30

共働きカップルが直面する3つの転換期と突破法

第3の転換期は役割の変化が引き金になる。キャリアの最終段階だ。組織内で最もベテランの立場になる面白い時期だが、「もう前途洋々ではない」とも感じる。

一方、子どもが独立し親が亡くなるなど、子育てや介護から解放される。職場や家庭における役割の変化がアイデンティティの空白を生むが、後進の指導や地域社会への貢献といった新たな人生の後押しにもなる。別々のキャリアを歩んできた夫婦が共同で慈善事業や小規模な起業を行うなど、実にエキサイティングな時期でもある。

順調なカップルの共通項

キャリアもふたりの関係も順調にいっているカップルには、ひとつの共通項がある。それは、「どうやったらうまくいくか」を話し合い、明確な合意に至るということだ。「ふたりの協定づくり」とでもいうべき話し合いのカギは、(1)優先順位の明確化、(2)子ども、(3)限界の設定、(4)相手に助けを求めること、この4つだ。

まず、どちらのキャリアを優先させるかなどを明確にし、子育ての分担を決める。次に、「週60時間以上働くのはNG」といった「限界」を設け、困っていることがあれば助けを求める。ひとりで辛抱してはいけない。

研究結果を見て、驚いたことがある。キャリア・人生に最も満足しているカップルには、前述した「1番手・2番手」モデルや「交代制」モデルではなく、「ふたりとも1番手」モデルが多かったことだ。キャリアを同時に優先させる生活はストレス度が高そうだが、実際には最もうまくいっていた。「ふたりとも1番手」カップルは出会ったころから重要なことを話し合い、明確な合意に至ることが多い。

カップルがふたりの関係性をとらえるアプローチ法には「ゼロサム」と「ポジティブサム」がある。ポジティブサム思考は、(相手が利益を得れば自分の損失になるという)ゼロサム思考と違い、キャリアや家族に関する選択をふたりで話し合って行う。そして、家族全員にとってベストな決定を下す。

選択にトレードオフ(二律背反)は付きものだが、パートナーの目標実現に協力していることを折に触れて行動で示さないと、相手の憤りを招く。まずは8対2から始めてもいい。家事・育児を分担する割合を決めて一方の負担を軽くすることが相互理解を深め、幸せな夫婦関係につながる。


ジェニファー・ペトリリエリ◎INSEAD組織行動学・准教授。アイデンティティ、リーダーシップ、キャリアの発展に焦点を合わせた研究を行う。身近な人間関係が人をどうかたちづくるか、不安や危機のときが人のありようにどう影響を与えるかに、特に興味をもっている。3つの国で働いたあと、現在はイタリア人の夫ジャンピエロと子供ふたりとともにフランスで暮らしており、自身もデュアルキャリア・カップルとしての人生に喜びを見いだしている。

インタビュー=肥田美佐子

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年5月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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