AI

2024.05.07 10:45

論文検索のポストGoogleか。事業開発を加速する「Memory AI」とは

まず、高い自然言語処理力があげられる。MEMORY LABでは2022年9月より、データサイエンスを専門とする東京大学大学院 坂田一郎からアドバイスを受け、研究に特化した大規模言語モデル(LLM)を駆使して、サービスを開発してきた。さらに、現役の早稲田大学大学院生で自然言語処理の研究者でもあり、複数のハッカソンで受賞歴があるフィリピン出身のエンジニア、ペラルタ・シェン・リヴがテックリードとして開発を牽引。同社は、検索結果からノイズを取り除く技術の特許も取得している。

また、MEMORY LABの人員構成にもヒントがある。同社は、アルツハイマー病の研究者である畑瀬をはじめ、再生医療や工学など現役の研究者や、研究機関で研究に従事した経験をもつ人材が大半を占める。それらのメンバーが専門知識を生かして自ら手を動かすことで、企業の調査支援サービスをコンサルティング会社やシンクタンクなどより価格を抑えて提供してきた。

MEMORY LABではそうした調査や営業活動を通じて、同社の理念に共感する企業など50社以上にヒアリングを実施。その声をもとにサービスの仮説を立てては企業にぶつけてフィードックをもらい、大小の調整を何度も繰り返してきたという。企業の声を生かし、アジャイルでMemory AIを開発する仕組みを構築できたことは大きかったと畑瀬は話す。

「企業の事業開発担当者の方から、Memory AIの『検索結果が専門的すぎて使いづらい』という声をいただくこともありました。例えばある物質を検索して、結果としてそれを構成する元素名を並べられても、すぐに理解できるのは専門家ぐらいでしょう。その物質がどういう効能をもち、具体的にどの領域で使えるのかなど、専門家でなくても視覚的に理解しやすいように検索結果の構成や見せ方を調整していきました」

キリンホールディングスは、腸内環境事業での新規参入にあたり、Memory AIと同サービスを用いたコンサルティングサービスを導入。市場や関連技術の動向調査、自社技術の活用先探索などに生かし、腸内細菌検査サービス事業「MicroBio Me(マイクロバイオミー)」の検査開発を行った。それまで半年以上かけていた調査の期間とコストを、Memory AIの活用により半分程度に圧縮した。

また、大正製薬ではヘルスケア領域、ユーグレナ社ではR&Dセンターの研究の一部に同サービスを導入し、それぞれ戦略の立案や検討に活かしたという。

現在は企業向けのMemory AIだが、今後は対象をアカデミアにも拡大していく。大阪大学とはすでに2023年11月から、実証実験を開始している。さらに、特許情報やマーケット情報も検索結果に追加し、企業や大学が外部に公表せず、内部に蓄積してきた論文情報、研究情報も格納予定だ。

「例えば今、研究者が先行研究を調べて新しい論文の仮説を立てるために半年かかっているところを、Memory AIで1ヶ月に短縮できたとします。すると新しい研究がその分多く生まれて、世界が6倍のスピードで動く可能性が出てきます。アルツハイマー病が治る未来も、早く訪れるはず。

我々のビジョンは、世界の研究者が生み出した成果が地球規模の社会課題を少しでも早く解決するための情報のハブになることです」

畑瀬研斗(はたせけんと)◎MEMORY LAB 代表取締役社長 CEO。高校卒業後に渡米。 米国のニューヨーク州立大学オルバニー校で脳神経科学と心理学専攻を修了。在学中の2021年7月にMEMORY LABを設立。帰国後、理化学研究所の客員研究員を経て、慶應義塾大学研究員に着任。専門領域はアルツハイマー病。

※文部科学省 科学技術・学術政策研究所の「科学技術指標2023」による

文=大柏 真佑実

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