経済

2024.05.15 15:15

配達から回収への循環物流。郵便局2万4000軒ネットを駆使する日本郵政の「本気」

(左)日本郵政 サステナビリティ推進部長 關 祥之
(中央左)DROBE COO長井 大輔 (中央)ピーステックラボ 代表取締役社長 村本 理恵子
(中央右)ECOMMIT 代表取締役CEO
川野 輝之
(右)日本郵政キャピタル 代表取締役社長 丸田 俊也

(左)日本郵政 サステナビリティ推進部長 關 祥之
(中央左)DROBE COO長井 大輔 (中央)ピーステックラボ 代表取締役社長 村本 理恵子
(中央右)ECOMMIT 代表取締役CEO
川野 輝之
(右)日本郵政キャピタル 代表取締役社長 丸田 俊也

日本郵政グループの祖業である郵便事業が創業したのは、今から150年以上前の1871年(明治4年)。その約20年後の1892年に小包郵便の取り扱いが開始された。

その後、大正、昭和、平成という時代を駆け抜けて、郵便は2001年(平成13年)の263億通をピークに、2022年(令和4年)には144億通と減少した。その一方で、2001年に2億個だったゆうパックは、5倍の10億個に増加している。

情報化社会、電子商取引(EC)の発展によって変容してきた郵便事業だが、事業成長の基本モデルは取扱量の増加だったようにも見える。

時代は令和を迎え、地球温暖化、環境負荷をはじめとしたサステナビリティがクローズアップされるようになった。そして、日本郵政グループの事業成長に対する考え方も大きな転換点を迎え、循環物流を中心としたサーキュラーエコノミー(循環経済)に取り組んでいる。


※本稿は jp-capital.jp からの転載である。


日本郵政 サステナビリティ推進部長 關 祥之

「配達/配送用四輪車」の約5割、「二輪車」の約4割をEVに

インタビュアー: 日本郵政グループは150年超の歴史において、郵便事業という通信から金融系事業、そして物流のゆうパックと、提供サービスを進化させてきました。

一方、21世紀に入り、約四半世紀経過した今、事業会社は社会的要請のみならず、生活者視点においてもESG(Environment:環境・Social:社会・Governance:ガバナンス)、サステナビリティといったことに更に真摯に向き合わなければいけない時代となっています。

その中で、現在の日本郵政グループにおけるESG・サステナビリティへの取り組みとは、具体的にどのような内容でしょうか?

日本郵政 サステナビリティ推進部長 關 祥之: ESGやサステナビリティが企業経営の重要な要素としてさらに高まる中、日本郵政グループでは、2021年5月に公表したグループ中期経営計画「JP ビジョン2025」(※1)の中で、「お客さまと地域を支える『共創プラットフォーム』を目指す」と宣言しています。

その「共創プラットフォーム」における価値創造では、・人生100年時代の「一生」を支える、・日本全国の「地域社会」を支える、の2つを第一義に掲げています。

また、ESG目標として、GHG(Green House Gas:温室効果ガス)排出量を2030年度までに2019年度比で46%削減するとの目標を掲げています。日本郵政グループでは、物流における環境負荷の低減への取り組みとして、EV(電気自動車)の導入を進めています(※2)。導入が進んでいる東京都内では、2024年3月現在、配送・配達に使う四輪車の約5割、二輪車の約4割がEVとなっています。

配送・配達の場面は目にすることも多いため、車両からの排出量がGHG排出量の大部分を占めているように思われるかも知れませんが、実際には、局数の多い郵便局施設からの排出量が多くを占めています。

拠点から排出量削減の取り組みの一例としては「+エコ郵便局」(プラスエコゆうびんきょく)があります。昨年(2023年)には、北海道上川郡当麻町に木質バイオマスを活用した熱利用設備(チップボイラー)と、積雪期も発電が可能な太陽光発電設備を導入した「+エコ郵便局」である当麻郵便局が移転・開局しています(※3)。

インタビュアー:GHG排出量の削減以外にも目指している項目はありますか?

日本郵政 關: 地域のサステナビリティという観点では、GHG削減だけでなく、地域における社会課題・環境課題への対応を支援することも重要だと考えています。

日本郵政グループには郵便局が日本全国に約2万4千か所あり、わたしたちの事業のサステナビリティは、地域そのもののサステナビリティと密接不可分です。

そこで、以下の3点を重視して、郵政ネットワークを活用した地域の社会課題・環境課題への取り組みを進めることとしています。

1. 郵便局が地域のハブとして地域の様々な活動をつなぐ

地域の各種リソース・活動をつなぐことにより、採算性の確保が難しいことが多い社会課題・環境課題対応活動の持続可能性を高めていこうという考え方です。

例として、奈良県奈良市東部からスタートした取り組みでは、日本郵便株式会社の郵便局と配達ネットワークを活用し、ネットスーパーの商品を購入可能とする「おたがいマーケット」(※4)や、山形県鶴岡市で提供している地産地消買い物支援「ぽすちょこ便」(※5)といったものがあります。

2. 郵便局を通じて消費者の行動変容を促し、サプライチェーン全体での対応を進める

「地球、社会、ひとにやさしい」とされる「エシカル」な消費・活動を進めるためには、まず消費者に選択してもらう必要があります。身近なリアルな接点である郵便局からこのような動きを広げていこうという考え方です。

例として、地域の産品をお届けする「ふるさと小包」で「エシカル」な商品を提供しています。具体的には、規格外品利用によるフードロスの削減や追加料金を支払っていただくことにより生産から配送までのCO2をオフセットできるというものです。

一方で、「エシカル」という言葉の理解は、一般的にはそれほど進んでいません。

そこで、SDGsの取り組みに力を入れている東京都立千早高等学校との連携施策の中で、高校生のみなさんに「エシカル」を解説したPOPを作ってもらい、近くの郵便局のお客様に説明するといった取り組みも行っています。

3. スタートアップと連携して新たな技術・ビジネスモデルの社会実装を進める

社会課題・環境課題に対応するための新たな技術やビジネスモデルは、スタートアップから多く提案されています。幅広い業務領域や様々な顧客接点を有する郵便局を活用し、これらのスタートアップとの連携によりPoC(実証実験)等を積極的に行い、社会実装を進めていきたいと考えています。

日本郵政は、経済産業省が主催するカーボンニュートラルに向けた社会構造変革のための価値提供を目指す「GXリーグ(グリーントランスフォーメーション)」に賛同し、参画しています。

参画企業は大企業中心ですが、社会全体で考えるとスタートアップにおけるGX関連の資金調達は大きな課題です。その課題解決の一助となるべく、日本郵政グループでは、CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)である日本郵政キャピタルを通じて、GXにおけるスタートアップとの共創を推し進めています。

日本郵政キャピタル 代表取締役社長 丸田 俊也

郵便局2万4千軒を循環経済の「ハブ」に

インタビュアー: さきほど、日本郵政キャピタルについて触れられましたが、日本郵政キャピタルにおけるGX、ひいてはESG・サステナビリティの取り組みはどういったものになるでしょうか?

日本郵政キャピタル 代表取締役社長 丸田 俊也: 環境負荷低減、社会課題の解決のため、スタートアップとの協業を積極的に推し進めています。そして、単に出資するだけでなく、郵便局のネットワークをサーキュラーエコノミーの拠点として活用することを開始しています。

具体的には、衣類回収をはじめとした資源循環型ビジネスを展開するECOMMIT社(日本郵政キャピタルのパートナー企業でもある)と連携し、東京渋谷の郵便局内などに、衣類・服飾雑貨の不要品回収を行う資源循環サービス「PASSTO(パスト)」の不要品回収ボックスを設置しています。

「PASSTO」によって、来局していただいた方に衣類回収のサービスの認識と、資源回収を通じてサーキュラーエコノミー(循環経済)に参加していただく仕組みを試験的に進めています。

他には、日本郵政キャピタルが仲介役となり、洋服のシェアリングサービスであるDROBE社(日本郵政キャピタルのパートナー)とECOMMIT社のサービスを組み合わせ、ユーザーが不要になった洋服をスムーズに回収し、結果として、衣料廃棄を減らす試みを実施しています。

さらに、モノの定額制シェアリングサービスを展開するピーステックラボ社(日本郵政キャピタルのパートナー)とECOMMIT社のサービスの組み合わせなど、積極的にパートナー企業間の共創を推進しています。

日本郵政キャピタルは、パートナー企業との連携を通じて、郵政ネットワークを活用した取り組みの二つ、地域のハブ、行動変容を促すという二つのファンクションを担っていることになります。

DROBE COO 長井 大輔

「意識高い」X世代を取り込む

インタビュアー: スタートアップ同士によるサーキュラーエコノミーの実現ですが、具体的な事例や今後の発展形・構想について教えてください。

DROBE COO 長井 大輔: わたしたちはパーソナルスタイリングサービスDROBEを展開しています。プロのスタイリストが各人にコーディネートした有名ブランドや人気ショップの服を、自宅にいながら試着できるサービスです。

DROBEのユーザーは、当然ファッション感度が高く、洋服が好きです。洋服が好きということは、所有している服も多くなるわけですが、着用頻度が減った服や、着なくなった服がどのように扱われているかは、気になっているところでした。

そこで、日本郵政キャピタルの仲介を受け、資源循環型ビジネスを展開するECOMMIT社と連携し、不要となった洋服の回収を期間限定キャンペーンとしてトライアル実施しました。結果、やはり洋服の所有数が多く、環境面への関心も高いと見込んでいたX世代(エックス・セダイ:ミレニアム世代・Z世代の前)の方に多く使っていただきました。

また、服飾、アパレルメーカーにとって「自宅で試着は悪」「返品は悪」が定説でしたがDROBEでは、その定説を覆しビジネスを展開しています。この仕組みを洋服に限らず、他社・他業種にプラットフォームとして提供していきたいです。


ECOMMIT 代表取締役CEO 川野 輝之

ECOMMIT 代表取締役CEO 川野 輝之: ECOMMITでは、不要品を回収し、選別、再流通させるというビジネスを行っており、衣類の選別の過程では、リユース(中古品)とするか、原材料として活用するかの判断を行っています。

DROBE社との取り組みの場合、自宅から直接洋服を回収したため、他の経路からの回収よりも、状態が良く、リユース価値の高い洋服が多く存在していました。重量あたりの経済価値が高いということは、輸送コストとの見合いを含め、サーキュラーエコノミーを考える上で、非常に重要なことだと考えています。

日本郵政グループとのパートナーシップで考えると、郵便局という拠点網との連携をもっと深めたいです。全国に2万4千ある郵便局というのは、いわばプラットフォームです。

ECOMMITの事業ドメインであるモノの回収ですが、どの地域にも必ずモノの回収ニーズは必ずあると思っています。

手紙からモノに。配達から回収に。郵便局と一緒にサーキュラーエコノミー(循環経済)の世界を拡げていきたいです。


ピーステックラボ 代表取締役社長 村本 理恵子

ピーステックラボ 代表取締役社長 村本 理恵子: ピーステックラボのレンタル事業は家電がメインです。2001年に家電リサイクル法が施行されましたが、当時、家電製品の年間60万トン(※6)が廃棄されていました。現在の衣料廃棄は51万トン(※7)と言われていますが、どれだけ多くの量だが分かるかと思います。

レンタル事業で家電にかかわる上で、廃棄は避けて通れません。わたしたちでは修復できない故障やパーツの欠損といったことは必ず起きます。その中で、そのまま廃棄せずに、既に家電の選別ノウハウを持っているECOMMIT社と協業することは、事業上もさることながらサーキュラーエコノミーでも大きな意味があると思います。
また、今日、この場があったおかげで頭に浮かんだ共創ですが、家電を送るときに必要なものとして、緩衝材があります。緩衝材もまた廃棄物の候補です。ユーザーがピーステックラボの家電をECOMMIT社に送るときは、緩衝材の変わりに不要になった衣類を使うなどのことも考えられるでしょう。

日本郵政グループとのかかわりでは、物流倉庫と顧客接点の二点で、共創を進めていきたいです。スタートアップにとって、物流倉庫の確保や立ち上げ、拡張はとても大変なことです。わたしたちが利用させていただいている東京多摩物流ソリューションセンターのようなロジスティクスセンターが増えると嬉しいですね。

そして、顧客接点という意味では、やはり2万4千ある郵便局のネットワークに大きな価値があると思います。個々の郵便局は地域が必要としているもの、そして余っているものを知っています。それらの情報を統合して、新しいサービスを展開する。また一つ、地域創生の形が出来ると思います。

日本郵政キャピタル 丸田

物流拠点を「スタートアップの集まる場所」に!

インタビュアー: 最後に日本郵政グループにとってのサーキュラーエコノミーの広がり、これからの取り組みについて教えてください。

日本郵政キャピタル 丸田: さきほどロジスティクスセンターの共有の話がありましたが、日本郵便の東京多摩物流ソリューションセンター(東京多摩LSC:東京都国立市)をはじめとした物流拠点をサーキュラーエコノミーに関連するスタートアップの集まる場所にしたいですね。

スタートアップは規模の経済を打ち出すまでに時間がかかりますが、日本郵政グループが物流拠点をプラットフォームとして展開し、物流機能の共有のみならず、商品の撮影や修復といった機能を共有すれば、スタートアップの事業成長の加速につながります。

物流ソリューションセンターでは地域の人が働きます。日本郵政グループがハブとなって、その場所で働く人のリソース配分の最適化もできれば、地域経済の活性化にもつながっていくと思います。



日本郵政 關: いろいろな取り組みを「つなげていく」ということがポイントになると考えています。我々が目指しているのは、新たなエコシステムを構築することです。個々の取り組みはそれほど大きくなくても、終わってみると大きな成果が出る「わらしべ長者」的な成長・成果を期待しています。

これを進める上では、各種ステークホルダーのアイデアや共感を得ることが重要だと考えています。サステナビリティ、エシカル、サーキュラーエコノミーなどの横文字・カタカナの用語は、多くのお客様にとっては、まだまだ馴染みのない言葉だと思います。郵便局のみなさんが「自分ごと」としてお客さまに説明できるように取り組みの意義を分かりやすく伝える一方、お客さまやフロントライン社員からの「良かった」という声を丁寧に拾い上げ、広げていきたいです。

一方で、押しつけにならないようにすることや、「グリーンウオッシュ」(実態のあまりない見せかけの環境対策)との批判を受けないようにすることも重要です。「正しい情報を伝えること」と「選択肢を提供すること」の2点を基本的な考え方として進めていきたいと考えています。

あとがき

今回のインタビューでは「グリーンウオッシュ」という言葉も出てきた。センシティブな言葉だけに、企業の対外折衝部署は使うことを避けて通る言葉だ。その言葉を敢えて使って説明していく。経済活動と環境負荷低減の両立という難しい命題を与えられている現在、日本郵政グループがESGやサステナビリティ、そして、サーキュラーエコノミーに真剣に対峙していることが伺える一幕であった。


※1 JP ビジョン2025

※2 環境に配慮した郵便・物流

※3 日本郵便における「+エコ郵便局」の取り組み

※4 地域のコミュニケーションを促進する持続可能な買物サービス「おたがいマーケット」の提供開始

※5 ~地域内の流通をサポート ~日本郵便の新たな配送サービス「ぽすちょこ便」の提供開始

※6 環境省 家電リサイクル法Q&A(1)

※7 環境省 令和2年度 ファッションと環境に関する調査業務




インタビュアー・曽根康司(そね・こうじ)◎キャリアインデックス執行役員 広報・IR担当。慶應義塾大学大学院経営管理研究科修士課程EMBAプログラム修了(MBA)。時計商を経て、黎明期のインターネット業界に飛び込む。アマゾンジャパン、ヤフー、キャリアインデックス、EXIDEAを経て、2023年11月に再ジョイン。「焼肉探究集団ヤキニクエスト」メンバーでもあり、全国数百件の焼肉店を食べ歩いている。




※本稿は「JP Capital」に掲載された日本郵政グループが本気で取り組むサーキュラーエコノミー(循環経済)とは を再編集したものである。







文=曽根 康司

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