アート

2024.04.05 14:30

自分の「見る目」を養うには。大林組会長とアートコレクション

作品の購入に際しては、培った見識を総動員するわけだが、最近、すっと胸に響く価値観に触れたという。それは、長年にわたってアート業界を支援し、「文化資本経営」を唱えた資生堂名誉会長、故・福原義春の著書『美-「見えないものをみる」ということ』に書かれていたことだ。

「絶版で読めずにいたのですが、昨年末に福原さんのお別れ会でいただきました。人がアートを買うときには、その作家の注目度、作品の価格、将来的な価値などさまざま考えてしまうものです。この空間に合う彫刻を……ということもあるでしょう。しかし福原さんは、その作品をずっと愛でることができるか、を問うていました。その視点で見ると、本当に好きで購入したいものなんて一握り。そう選んでみたいと思いました」

年月に応じてファッションや食の趣向が変わるように、アートの好みも少しずつ変化する。「それは自然なこと。作家の作風が変わることもある。それでも、ずっと変わらず惹かれるのはミニマリズムの作品です」と大林は言う。

出会いは、今から20年ほど前、MoMAのキュレーターたちとミニマル・アートの巨匠、ドナルド・ジャッドの拠点を訪れた時だった。飛行機を乗り継いでようやくたどり着くテキサスの砂漠のど真ん中に、コンクリートでできた彼のインスタレーション作品がある。マーファ(Marfa)と呼ばれるその一帯には、建築や家具の設計も手がけた彼の作品やスタジオも点在し、その世界観に衝撃を受けた。

そこで、まだ今ほど有名でなかったダン・フレイヴィンやカール・アンドレの展示に触れた。また、日本のミニマル・アートの先駆者として評価される桑山忠明と個人的に親交を結び、何度かニューヨークのスタジオにも足を運んだ。「昨年お会いした直後に亡くなられたのは本当に残念だ」と大林。こうして、ひとりの作家や作品からコレクションに文脈やストーリーが生まれていく。同時に、「自分の幅も広がる」という。

コレクションは個性そのもの

コレクターのなかには、購入の助言するアートアドバイザーをつける人もいるが、大林は完全に独学だ。「アドバイザーに頼ると、結局その人のコレクションになってしまう。失敗は少なく、資産形成の観点ではいいですが、それでは個性がない」と明言。

コレクション形成という創造において、アーティストたちから学んだ「ユニークであること」を実践している。また近年は、自らコンセプトを考えて展覧会を開催し、作品を一般に共有している。「プロのようにはいかないですが、キュレーションも楽しみのひとつ」だという。そこで彼のコレクションに触れた人のなかから、のちの大物コレクターが生まれるかもしれない。


大林剛郎◎大林組会長、大林財団理事長。2009年より現職。森美術館理事、原美術館評議員、国際芸術祭「あいち」組織委員会会長、アートバーゼルグローバルパトロンカウンシル、テート(ロンドン)やMoMAインターナショナル・カウンシル・メンバーなど、国内外の美術館や財団の評議委員を務める。

文=守屋美香 写真=若原瑞昌

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年4月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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