マネーというものは、動かしたり交換したりできる物資やサービス、労働力があって初めて効果を持つ。だが、コロナ禍によるロックダウンのさなかには、ロックダウンの結果として生産が大幅に落ち込んだため、カネと交換されるモノが非常に少なくなっていた。当時のFRBは、ドルの流通量が減っている事態を、ドルを大量に供給することによって改善することはできなかった。それは、ロックダウンがきっかけになってドル流通量が減っていたからだ。
流通量を増加に転じさせる唯一の手段は、ロックダウンを終えることだった。2020年当時、この明白な真実が、特に元FRB理事のケビン・ウォルシュをはじめとするフーバー研究所の研究員たちから見過ごされていたのは特筆すべきことだ。生産が行われるところには常にカネが集まり、逆に、生産が行われていないところでは常にカネが離れていくのだ。
財政政策に関して言えば、レビーは政府が、どこの需要も減らすことなく「需要」を再配分できると夢想している。これはつまり、私たち全員が、それぞれ隣人のポケットから20ドルをくすねたとしたら、誰も20ドルを失わないことが可能だと言っているに等しい。まったく、手品師も感心するような話だ。
FRBの対応に話を戻すと、レビーの夢想に反して、FRBにはそのようなリソースはない。経済成長を加速したり減速させたりする力は、FRBにはないのだ。
FRBは資金調達のコスト、すなわち金利を下げることで融資へのアクセスを増大できるとされているが、もしあなたがこの説を信じるなら、あなたの主張はFRBは低成長に対して、レビーがいうところの「積極的な金融政策」をとるべきだということになる。しかし実際には、利益を志向する人々で構成されている市場において、金利が低い状態は、「良いアイデアに集まる融資」が少なくなる状態だ。こうした場合、FRBの介入は一般的に、経済成長のブレーキになるはずだ。
FRBは、民間市場の自然な在り方に介入することで生産を増大させることはできないし、それと同様に、レビーのいう「積極的な金利引き上げ」によって生産を縮小させることもできない。冗談はやめよう。強いていえば、こうした「積極的な金利引き上げ」は、FRBがこれまでのような市場介入を控えていくというサインであり、理屈から言えば、これは市場にとってプラス材料になるはずだ。
かつては、フーバー研究所において、「市場介入は、経済生産をスローダウンさせる」という知恵が受け入れられていた時代があった。。
(forbes.com 原文)