そうしたなか、フィンランドで行われた研究により、視覚芸術の鑑賞には脳の「サリエンス(顕著性)・ネットワーク」と似たような働きがあると考えられることがわかったという。
このネットワークは、人間の生存のために重要なもの。記憶システムがさまざまな情報に優先順位を付けることを助けるものだ。何らかの「顕著性」を刺激として認識し、(積極的に何かについて考えているとき、そうではないときに活性化される)脳の2つのネットワークの切り替えを行っている。
つまり、視覚芸術は一般的に認められている(怒りや喜びなどの)「基本的な感情」以上に、さまざまな感情を幅広く呼び起こし、私たちが明確に認識するそれらの感情は、視覚芸術がもたらす身体感覚とリンクしていると考えられるという。
4つの実験で確認
フィンランドのトゥルク大学などが運営する国立研究所、陽電子断層撮影(PET)の研究を行うトゥルクPET センターで人間の感情についての研究を主導するラウリ・ヌメンマー教授と、同教授と共同で研究を行うアールト大学のリーッタ・ハリ名誉教授(神経科学者・医師)は、芸術鑑賞が感情を引き出すメカニズムをより明確にするため、数多くの作品を収めたデータベースを利用し、4種類の実験を行った。まず、鑑賞によって引き起こされた感情が体のどの部分で感じられたかを示すボディマップ(身体地図)」を作成。同時に、その感情の強さの程度を数値化した。さらに、鑑賞したそれぞれの作品のどの部分を「興味深いと思ったか」について被験者に尋ね、作品を見ている間の彼らの視線の移動を記録した。
ヌメンマー教授らによると、実験の結果、芸術作品が幅広くさまざまな感情を呼び起こすこと、感情が認識される体の部分は、それぞれの感情によって異なることが示された。それは特に、人間が描かれた作品を鑑賞したときに、顕著に表れていたという。