まず、彼がクルド人の同級生と出会ったという十条のクルド料理レストラン「メソポタミア」(東京都北区上十条1-11-8)。そこはクルドの世界を知る第一歩としては面白いと思った。
あとで知ったのだが、この店のオーナーは、日本クルド文化協会事務局長を務め、東京外国語大学などでクルド語を教えるワッカス・チョーラクさんだった。彼はクルド民族の文化を守り伝えるために、この店を始めたそうだ。
川口市の隣のJR蕨駅近くにある「ハッピーケバブ」(川口市芝新町7-9)もクルド人経営の店だ。店内には若いクルド人たちが働いていて、巨大なケバブバーガーや日本で現地化されたと思われるケバブ丼なるメニューもあった。店は川崎や鶴見、市川など首都圏に多店舗展開しているそうだ。
筆者がいちばん驚いたのは「マートコバヤシ」(川口市芝中田2-9-4)という八百屋だった。その店を訪ねると、店内はクルド人の客たちでいっぱいだったからだ。周辺に彼らが多く住んでいることがうかがえた。
八重樫さんは、今回のフェスに関する課題や展望を次のように語った。
「エスニック料理を通して異なる文化の人たちと楽しくつながり、その奥の価値観や社会、文化をみんなで理解することが理想。しかし、そこまでできたかといえば、食べるだけで終わってしまうケースが多かったのではないか。今後は食フェスにとどまらず、新しい試みを考えたい」
彼はこれからも川口での活動を続けていくそうである。食を通じた在住外国人との相互理解を深めようとした彼の実践に基づく話は、筆者が日ごろ抱えている思いとも重なる部分が多かった。多文化社会の内実を理解するのはそんなにたやすいことではないということも含めてだ。
だが、新しい世代の登場は、これまでの前提や認識から自由なところからなにかが始まるという可能性を感じさせるものがあった。彼らの取り組みを今後も見守っていきたい。