資産運用

2024.02.29 11:30

インボイス制度の影響は? 会社員のための「確定申告の心得」

Getty Images

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今年も確定申告が近づいてきた。今年の締め切り日3月15日は金曜日のため、週末の時間が当てにできないのも、とくに会社員にとっては痛いところだ。

そんななか、前編 会社員が確定申告するなら。まだ間に合う、税理士と基礎をおさらい に続き、坂口税理士事務所の坂口勝啓税理士に以下、ご寄稿いただいた。経費と控除、インボイス制度による影響などについてわかりやすく解説する。


経費と控除


前回は収入の種類について説明しましたので、この章では、

収入―経費・控除=所得

この式の、「経費・控除」について説明したいと思います。ただ、経費については、すでに前章で説明済みですので、ここでは控除について説明します。控除とは、所得からさらに差し引くことができる項目を言います。個人においては個人ごとに諸事情があり、その諸事情を控除の形で加味するという政策的意図が反映されているのです。控除には以下

・基礎控除 ・社会保険料控除 ・配偶者控除 ・配偶者特別控除 ・扶養控除
・勤労学生控除 ・生命保険料控除 ・地震保険料控除 ・医療費控除 ・寄付金控除  
・寡婦控除 ・ひとり親控除 ・小規模企業共済等掛金控除 ・雑損控除

と実に14種類の控除があります。そしてその一つ一つに控除が利用できるかの条件が設けられていて、皆さんはその控除を利用することができるかどうかを判断する必要があるのです。
 
■基礎控除

基礎控除とは、その名の通り全ての人が以下の表に基づき差し引くことができる控除になります。



所得が2400万円以下の場合に基礎控除額が減額となりますので、ほとんどの方は満額の48万円を差し引くことができると思います。
 
■社会保険料控除

健康保険、国民年金、厚生年金等の社会保険の支払額は、控除として所得から差し引くことができます。こちらも免除されている方を除き支払った人は全て対象になります。
 
■配偶者控除

配偶者がいる場合、以下の様に控除を受けることができます。



こちらも基礎控除と同様に、皆さんの所得によって控除額が変わりますが、1000万円を超える場合は対象外となります。そして、配偶者の所得が48万円以下である場合になります。
 
■配偶者特別控除

上記配偶者控除は、配偶者の所得が48万円以下である場合に控除が受けられますが、48万円を超えた場合は、以下の表に基づき配偶者特別控除が受けられます。 


 
【扶養控除】

扶養親族がいる場合、以下の表による控除が受けられます。



区分は以下の通りです。

一般の扶養親族:16歳以上18歳以下、23歳以上30歳未満
特定扶養親族 :19歳以上22歳以下
老人扶養親族 :70歳以上

そして、その親族の所得が48万円以下である等の条件があります。
 
■勤労学生控除

本人が勤労学生である場合、27万円の控除が受けられます。

勤労学生:合計所得が75万円以下かつ、給与所得以外の所得が10万円以下の学生
 
ここまでの控除は本人に係る身分に関する控除になります。すなわち、配偶者や親族がいる場合に控除が受けられるといった内容の控除です。
 
■生命保険料控除

皆さんが生命保険料、介護医療保険料、年金保険料を支払った場合に一定の金額の控除が受けられます。ここでは詳細は割愛します。知りたい方は国税庁のHPをご参照ください。
 
■地震保険料控除

生命保険料控除と同様に、損害保険のうち地震保険料を支払った場合に、控除を受けられます。同じく詳細は国税庁のHPをご参照ください。
 
■寡婦控除・ひとり親控除

寡婦:女性で、夫と離婚・死別した人で一定の条件を満たした方:27万円
ひとり親:ひとり親の方で一定の条件を満たした方:35万円

それぞれ控除を受けられます。
 
ここまでの控除は、給与所得が年末調整を行う際に、必要な資料を提出することにより、会社が控除の手続きを行ってくれます。よって、給与収入しかないサラリーマンは、年末調整により上記控除計算も行われて終了となります。

しかし、以下の控除については、年末調整の対象外であるため、以下の控除があるサラリーマンも年末調整後に改めて確定申告を行う必要があります。特に寄付金控除が受けられるふるさと納税は、サラリーマンこそ積極的に行うべき控除なので、ふるさと納税を行った際には、しっかりと確定申告を行うことが重要です。
 
■医療費控除

医療費を支払った場合、基本的に10万円を超えた部分について控除を受けられます。その他セルフメディケーション税制の選択が可能です。
 
■寄付金控除

皆さんが一定の先に対して寄付を行った場合、その金額の一部について控除を受けられます。いわゆる「ふるさと納税」もその対象になります。
 
■小規模共済控除
 
皆さんが小規模共済に基づく掛金を支払った場合、その金額について控除を受けられます。
 
■雑損控除

災害、盗難、横領によって損害を受けた場合等に、一定の金額の控除を受けられます。
 

以上が、控除になります。このように所得計算は複雑なので皆さんがわからないのも無理はありません。しかし、最近では確定申告ソフトが進歩して誰でも簡単に確定申告ができるようになっています。これについては後ほど説明します。

税金の種類:所得税と住民税(事業税)


さて、今までの説明は皆さんの所得税がどうやって計算されるかの説明でした。次にこの章では皆さんが納める税金として所得税以外の税金について説明します。

税金には何に対して税金が発生するのかという対象による税金と、誰に納税するのかという納税先による税金の種類があります。皆さんが納める税金は納める先(誰に)によって、所得税以外の税金があります。それが、住民税と事業税です。誰に対して納める税金なのかは、以下の通りです。

所得税:国に対する税金
住民税:市町村に対する税金
事業税:都道府県に対する税金

このうち事業税は、個人事業主でかつ法律で定められた70の業種に従事している人が対象になります。また年間290万円以上の事業所得がある人が納税することになります。

住民税は、基本的に全ての皆さんが対象になります。そして、住民税は所得税と同様に所得から計算する「所得割額」と一定額の「均等割額」によって計算します。

所得割額:所得税で計算した課税所得×10%
均等割額:一定額

なお、年末調整を行うサラリーマンの皆さんは年末調整でこの住民税の計算も会社が行うことになります。

実は簡単!? 確定申告、優秀なソフト「+eTax」がある!


さて、ここまでで所得税や住民税の計算方法を説明してきました。皆さんの所得を計算するには、多数の収入(所得)と多数の税額控除を把握して計算する必要があるため、とても難しく感じると思います。事実、この計算を自身が独自で行うとなると、とてもではありませんが難しいと思います。

それでは、確定申告を行うことは無理なのか?と言いますと、今の時代はそうではありません。今は「個で稼ぐ時代」と呼ばれ、サラリーマンの皆さんも副業・兼業は当たり前の時代になりました。インターネット、SNSの普及により一躍有名人になり多額の収入を得る可能性も出てきました。そう、これからは誰もが色んな形で収入を得ることができるようになったのです。

そんな中、確定申告ももっと簡単にできるようにと、確定申告を支援する会計システムが進化しています。それもサブスクリプションの浸透で以前とは違い、比較的安価で利用できるようになりました。

さらに国税庁もそのような時代に対応すべく、国税電子申告・納税システムの「e-Tax」もどんどん進化しています。今ではスマートフォンで電子申告・納税ができるようになりました。皆さんも食べず嫌いにならずに、一度はチャレンジされることをお勧めします。

インボイス制度の影響はあるのか?


「インボイス制度」で何が変わるか気になっている向きもあるかもしれませんが、インボイス制度は「消費税に関する制度」で、個人事業主の場合は、1000万円以上の事業収入がある人しか対象にならないため、会社員諸氏にはあまり関係がないかもしれません。

「1000万円以上の事業収入がある」場合は、以下のようになります。

まず、インボイスとは何でしょうか? 正式には、「適格請求書」と言い、正確な税率や消費税額を伝える書類のことを言います。いわゆる「請求書」です。今までは、「請求書」であれば、どのような様式でも問題なく、消費税の処理を行うことができましたが、これからは、「適格請求書」でなければ、消費税の処理を行うことができなくなります。

それでは、「適格請求書」とはどのようなものをいうのでしょうか?ここでは、具体的な説明は割愛します。詳しくは、インボイス制度今月から、宛名ナシはもうNG? 領収書の「ミシン目」に注意をご覧ください。入手したら以下の点に注意が必要です。

注意点その1 


・入手した請求書の発行先(相手方)は、「適格請求書発行事業者」か?

「適格請求書」を発行するためには、国税庁に「適格請求書発行事業者」の届出をしている必要があります。「適格請求書発行事業者」となるとTから始まる13桁の番号が割り振られますので、その番号から適切に登録されているか否かを確認しなければなりません。なお、確認については、こちらの国税庁のサイトで可能です。
https://www.invoice-kohyo.nta.go.jp/

注意点その2


・入手した請求書は、「適格請求書」若しくは「適格簡易請求書」かどうか?

「適格請求書」の要件を満たしているかの確認を行う必要があります。記載事項については、国税庁がチェックシートを提供していますのでこちらをご確認ください。

この様に、請求書(インボイス)を貰ったら終わりではなく、確認する事項があるのです。これがインボイス制度の大変な点ですね。

免税事業者との取引を行う際の注意点

上記については、あくまで取引先がインボイス事業者である場合の注意点です。

それでは、そもそもインボイス事業者でない相手と取引をする場合はどのような影響があるのでしょうか?インボイス事業者でない場合、受け取った「請求書」は適格ではありませんので、消費税の処理をすることができません。すなわち、支払った消費税を払ったと処理すること(「仕入税額控除」と言います)ができないのです。

言い方を変えると、消費税を払ったにも関わらず、払ったと認めてもらえないのです。消費税は個人の場合、確定申告時期に申告書を作成して納めなくてはなりません。その納める額は簡単に説明すると、

預かった消費税(売上に係る消費税)ー払った消費税(経費等に係る消費税)=納める消費税


となります。何度も言いますが、免税事業者に払った消費税は、払ったと認められないわけですから、上記式の「払った消費税」として処理できないのです。ですので、払ったにも関わらず、再度消費税を納める必要が生じるのです。いわゆる「二重課税」です。この「二重課税」を回避するためにはどうすればよいのでしょうか?答えは「値引」です。免税事業者との取引を行うと払った消費税を払ったと認められないのであれば、その金額を「値引」してもらえばよいのです。具体的には、

2023年10月1日~2026年9月30日 :2%の負担
2026年10月1日~2029年9月30日 :5%の負担
2029年10月1日以降 :10%の負担

となりますので、当面は2%の「値引」をしてもらえば「二重課税」は回避できることになります。ただ、この回避案は相手先に合意してもらう必要がありますので、留意が必要です。くれぐれも強制しないように。

税理士の役割とは?


インターネットとスマートフォンの普及により、誰もが比較的簡単に確定申告ができるようになりました。とするなら、今まで確定申告を行っていた税理士はお役御免となるのでしょうか?

答えはNOです。確かに今までの様な、書類を作成するだけの税理士は、会計システム等の進化によりその価値は急激に下落することでしょう。当たり前の話です。

それでは、これからの税理士の役割はどのようになるのでしょうか?

答えは「保証」になります。皆さんも国税庁の職員の立場になって考えてみてください。皆さんが提出した「確定申告書」が正しく作成されていると信用することはできるでしょうか?確かに会計システムは進化したかもしれませんが、それを利用している皆さんは千差万別でその知識や経験もバラバラです。さらに国税の職員はそんな皆さんと会ったことも顔を見たこともありません。そんな皆さんが作成した「確定申告書」を安心して見ることはできるでしょうか?私なら、失礼ながら信頼して安心して見ることはできません。

そう、皆さんが作った確定申告書には失礼ながら「信頼がない」のです。その信頼を担保する役割を果たすのが「税理士」なのです。専門家である「税理士」が自己の責任の下「申告書」を保証することにより、国税の職員は安心して「確定申告書」を見ることができるのです。

国税庁も人材不足に悩んでいるといいます。そのような中、全ての確定申告書にまんべんなく時間をかけてチェックすることはできないのです。優先順位を定めて、危険性の高い「確定申告書」を重点的にチェックするのです。このように、皆さんが作成した「確定申告書」に保証を与えるのが、これからの税理士の価値になるでしょう。そしてそのような税理士がこれからも活躍することになると思います。皆さんも税理士を選ぶときは、この視点をもって選ばれると良いでしょう。

最後に

今回は、この時期だからこそ改めて確定申告の概要について説明しました。少しでも読者の皆さんの理解に資するよう、かなり大胆に要約した部分もあり、正確性を犠牲にした記述もあります。その点は上記趣旨を鑑みてご容赦願えればと思います。日本人でいる限り誰もが義務を負う「納税」。であるならば年末調整があるからと会社任せにせず、わからないからと税理士に丸投げせず、自分自身のことなのでまずは興味を持って確定申告を行ってみることをお勧めします。もちろんわからないことがあれば、我々税理士が全面的にサポートします。昨今政治家が国民の義務である「納税」を疎かにしていることが話題ですが、だからと言って皆さんも疎かにしていいという事ではありません。人は人、皆さんは意識を高く持って確定申告に臨んでほしいと思います。そんな皆さんの一助となれば幸いです。




坂口勝啓◎2003年10月~公認会計士2次試験合格後、あずさ監査法人入所。主にIPO監査業務に従事し、IPOを実現した社数は日本トップクラス。2018年3月~WARCに入社。IPO監査の経験を生かし、IPOコンサルティングに従事。2018年、坂口税理士事務所設立。監査法人における監査業務の経験を生かし、他の税理士では実績の少ない「書面添付制度」を積極的に推進するとともに、税務業務だけでなく、事業計画策定・融資支援・補助金等支援等、支援企業の「未来志向」を掲げ高付加価値を提供。

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