これからの企業に必要な「ニューアラインメント」

ジョージ・セラフェイム|ハーバード・ビジネス・スクール教授(Courtesy of George Serafeim)

ESG 投資の世界的権威が提唱する概念、「ニューアラインメント」。 これからの企業経営における道筋とその先にある希望について聞いた。


パーパスと利益の両立は可能か? ハーバード・ビジネス・スクールのジョージ・セラフェイム教授によれば、答えは「イエス」だ。『PURPOSE+PROFIT パーパス+利益のマネジメント』(ダイヤモンド社、倉田幸信・訳)を著した同教授が、両立の難しさと方法論を語る。

── 著書『PURPOSE+PROFIT』のなかで、パーパスと利益の両立を「ニューアラインメント(新しい調和)」と呼んでいますね。

ジョージ・セラフェイム(以下、セラフェイム まず、パーパス(目的・存在意義)について話そう。パーパスとは、組織が具体的な目標を掲げ、カギとなる能力を駆使して製品やサービスを提供し、人々の生活を高めることだ。パーパスの意識が強い組織では、次のようなことが起こる。

1つ目が、アラインメント(調和)の醸成だ。全員が組織の目標を認識することで生産性が上がり、イノベーションが増す。2つ目は士気の高まりだ。従業員が組織の使命に熱意を傾けるようになる。3つ目が、顧客や従業員、投資家など、ステークホルダー(利害関係者)の関与が強まることだ。こうしたアラインメントが起こっている要因として、以下のトレンドが挙げられる。

1つ目のメガトレンドはテクノロジーの進歩だ。インターネットやソーシャルメディアで社会の透明性が高まり、企業が社会に与える影響について多くの情報が手に入るようになった。

2つ目は、企業行動を映し出す情報が普及したおかげで、ステークホルダーが、社会にプラスの影響を及ぼす企業を選び始めていることだ。

──そもそも、なぜ「ニューアラインメント」という概念に注目したのですか。

セラフェイム:財務上の業績と、社会に及ぼす影響というふたつの尺度で企業の「成功」度を測るべきだと考えるからだ。企業が顧客の生活や従業員、環境に与える影響を数値化するためのシステムが誕生すれば、購買や就職、投資などの決定に役立ち、パーパスと利益の関係が強まる。

世界がデータ主導になって透明性が高まり、企業が社会に与える影響の可視化が進むなか、従業員や順客、投資家の見方も変わった。もはや「パーパスか利益か」の二者択一でなく、「パーパスも利益も」という「AND(そして)」の発想だ。パーパスと利益の両立がかつてないほど重要になっている背景には、こうした変化がある。

金融危機当時、投資家はESG(環境・社会・企業統治)になど見向きもせず、企業には、パーパスと利益の両立で業績を上げるだけの経営能力もなかった。多くの企業はパーパスを、利益とは無縁の「コストセンター」だとみなしていた。

──ニューアラインメントの具体的な動きは?

セラフェイム:例えば、ケニアにあるクリーンエネルギーの調理具メーカー「KOKO Networks(ココネットワークス)」が好例だ。同社はアフリカで、バイオエタノールを使う調理器具の販売・製造というイノベーションを通し、クリーンエネルギーによる調理への移行を促すことで、木炭の使用という問題の解決に取り組んでいる。
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インタビュー=肥田美佐子

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年2月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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