2023年は「日本が世界のフロントランナーの位置に立ち始めた年」だった。環境と金融の関係はどう変わり、どこに向かうのか。2015年から振り返る。
2023年は、日本が世界に先駆けて提唱してきた「トランジション・ファイナンス」がG7の声明に盛り込まれ、ネットゼロのためのグラスゴー金融同盟(GFANZ)の支部が世界で初めて日本に設立されるなど、象徴的な出来事があった。日本が単にほかの国から学んで追いつくという段階を過ぎて、日本初の取り組みや考え方を発信していく、そういうフェーズに入った。23年は日本が世界のフロントランナーとしての位置に立ち始めた年だと考えている。
日本が打ち出しているトランジション・ファイナンスとは、ただちに脱炭素化することが困難な産業・企業、いわゆる多排出産業に対して、省エネやエネルギー転換などの「移行」を促すための資金供給だ。金融庁・環境庁・経産省が「クライメート・トランジション・ファイナンスに関する基本指針を策定し、多排出産業が脱炭素化するための分野別のロードマップも発表している。
日本は多くの多排出産業を抱えており、化石燃料への依存を直ちにゼロにすることは難しい。取引先のアジアの国々も同じような状況だが、一方で、例えば欧米では、多排出の産業に対して金融機関が投資や融資を引き上げてしまう大ベストメントの風潮も一時期あった。しかし、日本はそういったゼロかイチかで関係を切ってしまうような考え方はなじまないし、一緒に脱炭素への移行をアプローチしていくという日本らしいやり方だ。
日本として世界でいち早くこういった枠組みを整備。23年5月のG7の首脳会合の声明では、トランジション・ファイナンスは脱炭素化を推進するうえで重要な役割を有していると強調された。ファイナンスド・エミッションといった新しい論点も日本が提示している。
また、世界で初めてのトランジション国債として、GX経済移行債という新しい国債を発行することも、世界的に注目されている。インパクト投資のガイドラインも策定が進んでおり、国として積極的に取り組んでいる。
振り返ってみると、私がパリのOECDに出向した15年に国連でSDGsが採択され、年末にはCOP21でパリ協定が合意された。まさにそこが転換点だった。パリ協定で、いわゆる2度目標と1.5度目標、それらを達成するためのネットゼロを目指し、資金の流れを気候変動対策と整合的なものにすることを定めた。これがまさしく気候変動における金融の役割で、パリ協定で明記された。
やはり同じ年に、当時イングランド銀行の総裁で金融安定理事会の議長を務めていたマーク・カーニーが、ロンドンで金融関係者向けに行ったスピーチで、気候変動が金融市場にもたらすリスクについて強調した。金融におけるリスク管理という観点からも、気候変動が大きく注目された年だった。
15年12月にFSB(金融安定理事会)がTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)を設置し、17年にTCFDの最終報告が出た。企業は気候変動のリスクをしっかり把握して、それに対する戦略を立て、それを開示すべしとしている。21年には国際会計基準財団(IFRS財団)が国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)を設立した。