WOMEN

2024.02.15 15:00

半導体もジェンダー問題も…「日本を前進させてこなかった責任を果たしたい」東工大学長の決意

益 一哉(東京工業大学 学長)

益 一哉(東京工業大学 学長)

2023年10月31日に開催されたForbes JAPAN「WOMEN AWARD」。個人部門では、女性の新たな生き方や価値観を世に示し、 企業や社会に新しい風をもたらした各界のパイオニアが受賞した。

ジェンダー平等を呼びかけ、決断した、傍観者ではない男性に贈られる賞「HeForShe賞」には、東京工業大学の学長を務める益一哉が選ばれた。

2022年、東工大は大学共通テストや調査書、面接で合否を決める総合型・学校推薦型選抜で「女子枠」導入を発表。アカデミアに“激震”を起こした学長が、決断の裏側を語る。



多様性なくしてイノベーションは生まれない。女性の理系人材の育成は急務とされる。この問題を早くから指摘してきた女性起業家で、WOMEN AWARDでは審査員を務めたウィズグループ奥田浩美が、益学長に話を聞いた。

──女性教員枠、入試の女子枠導入(2024年度より)と改革を進めていますが、何かきっかけがあったのですか。

益 一哉(以下、女性活躍とか、そんな差し出がましいことは考えていません(笑)。僕は半導体の研究者として1980年代から国際会議に出ていたのだけど、昔は男ばっかり。それが2000年代になると、女性がチェア(座長)をやっていたりするわけです。MITやハーバードなどの名門大学で女性の学長も次々生まれていました。

ところが日本では、女性研究者が一向に増えていかない。僕はそれを知りながらも、積極的に行動を起こしたというわけではありませんでした。

2018年に学長になって足元を見て、初めて社会問題だと認識しました。これは自分が40代半ばで教授になったときの経験にも関係しています。ちょうどそのころ、世界の半導体ビジネスが大きく変化し、日本だけがその変化に乗り遅れてしまった。この失われた30年の大半は、そのあいだ何も行動しなかった僕らの責任じゃないか、と。それで、ジェンダーに対して自分はアクションを取る、と決意したのです。

──女子枠導入の計画立案までの過程で、どのような議論があったのですか。

益:学長に就任した際、一番強い意志としてあったのが「研究を強化する」ということ。半年かけてアクションプランを練ったのですが、当たり前のアイデアしか出てこない。

どうすればいいのかと考えたときに、僕らが変革を実行する際の“心持ち”が重要だと気づき、「多様性と寛容」「協調と挑戦」「決断と実行」という3つのコミットメントが生まれました。研究者としての経験から、多様な人間が集まってこそ革新的な研究ができるとわかっていたので「多様性」、そしてその違いを受け入れる「寛容」を筆頭に据えました。このように、もともとビジョンがあっての女子枠です。

──24年10月に東京医科歯科大学と統合されます。今回導入される女子枠と、どう関連しているのですか。

益:多様性とは、ジェンダーだけではありません。研究スタイルにしても、実験重視の人もいれば理論重視の人もいる。研究者の国籍もさまざま。統合も女子枠の話も、僕にとっては多様性のひとつなんです。学長になって、東工大の研究力をアップさせるために「多様性と寛容」に取り組み始め、その過程で女性教員枠と入試の女子枠の導入、さらに医科歯科大との統合とつながっていった。ずっと考えていたことがこのタイミングで結実したのです。

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文=中沢弘子 撮影=小田駿一

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