「まず、(中学卒業後に大工としてキャリアをスタートした)私自身のルーツを含めて、自分たちがエリートだとは全然思っていません。私のなかでは、ダボスにいる人たちはお金持ちのエリートではなく、世界を変える挑戦や活動をしている同志や仲間という感覚です」
ダボスの地で、ビジネスへの確かな手応えと志をともにする仲間を得たようだ。
「抽象度が高い話し方」をサム・アルトマンに学ぶ
最終日の昼に話を聞いたのはティアフォー創業者でCEO兼CTOの加藤真平。同社は2023年8月からユニコーン・コミュニティに参画している。年次総会に参加した感想を尋ねると、「当初の想定とそこまで違いはなかったし、当たり前のことを皆で話している印象でした」と忌憚のない言葉が返ってきた。そんななか、「一番のハイライトだった」というのがOpenAIの創業者兼CEOサム・アルトマンを囲んだクローズドな夕食会だ。起業家としてビル・ゲイツやアルトマンが醸し出す雰囲気や話し方に関心を寄せていたという加藤。アルトマンとの対話を通じて、「彼の話は抽象度が高いとわかったことが収穫だった」と言う。なぜ、抽象度の高さが重要なのか。
「例えば『これからの日本をどうするのか』という問いを考えたとき、他国に競争で勝つための具体的な案は出にくい状況だと思う。しかし抽象度を上げてみると、そもそもどの国が競争に勝っても日本に有益な仕組みを作るのが得策だとなるはずですし、極論を言えば地球が良ければいいという考え方もありうる。この前提があると目的ベースでさまざまな可能性を考えられるようになる。上に立つ人はこのレベル感で話をすることが大事だし、そのことを改めて確認できました」
さらに「年次総会に来ている多くの経営者と比べても、自分は競争でも勝てるという感覚は持ちました。一方で、今の自分ではビル・ゲイツのような圧倒的な立場のある人には、まだまだまともに会話もしてもらえないこともわかったのがよかった」とも。世界経済フォーラムのユニコーン・コミュニティに選出され、少なからぬお金を払って参画したことの意義についてはどう捉えているのか。
「ユニコーン・コミュニティに選ばれたという事実は株主からの評価とマーケットでの認知につながると思います。一方で、ティアフォーの年間売上はようやく20億円の水準を突破したところです。ここから毎年100%の成長を続けて、30年には売上高を何十倍にもしないと真のユニコーンにはなれない。ティアフォーはユニコーンだと社員に安心してもらうためにも、売り上げを着実に伸ばすことが当面の目標です」
TBMとティアフォー。ものの見方や感じ方は違うものの、「ダボス会議」を通じて自分たちの現在地を再認識し、さらなる飛躍のきっかけを得たことは間違いないようだ。
次回からは世界経済フォーラムのイノベーション・エコシステム「Uplink」にフォーカスし、気候変動や海洋汚染など世界が抱える喫緊の課題に挑む起業家たちの「革命」に迫る。