英博物館、ガーナの略奪品を本国に「貸与」 なぜ返還しないのか

英ロンドンの大英博物館(Getty Images)

英ロンドンの大英博物館とヴィクトリア・アルバート博物館は25日、ガーナから略奪された金銀製品32点が150年ぶりに本国に戻ると発表した。

これらの品々は、19世紀に大英帝国とアシャンティ王国(訳注:現在のガーナ内陸部に存在した王国)との間で勃発したアングロ・アシャンティ戦争中に英国軍によって略奪されたもので、ヴィクトリア・アルバート博物館が17点、大英博物館が15点所蔵している。両博物館は1874年4月、これらを競売で競り落とした。

所蔵品は、今年即位25周年を迎えるアシャンティ族の王オトムフオ・オセイ・トゥトゥ2世の記念行事で展示されることになっている。だが、展示品はガーナに永久的に返還されるわけではない。

大英博物館がフォーブスの取材に答えたところによると、展示品の「貸し出し」期間は3年間で、2027年には英国に戻る予定だという。これらの品々をガーナに完全に返還することは、英国の複数の法律によって妨げられている。例えば、1963年に制定された大英博物館法では、品物が複製品であるか、破損しているか、所蔵品として「ふさわしくない」と判断された場合を除き、同博物館が所蔵品を移転させることを禁じているのだ。同博物館は、所蔵品をガーナに永久的に返還する計画があるかについては明言しなかったが、今回の貸与を巡る合意を「法律が許す範囲内で各国や各地域社会と協力する方法」だと強調した。一方のヴィクトリア・アルバート博物館もフォーブスに対し、1983年に制定された国家遺産法により、合法的に所蔵品を返還することができないと説明。さらに、今回貸与される品物について、本国への返還の正式な要請は受けていないとした。

大英博物館をはじめとする欧米の博物館は、世界各地で列強が植民地を支配していた時代に戦争中に略奪されたり、その他の方法で入手されたりした美術品や工芸品、遺骨を所蔵していることが多い。だが、近年ではこうした品々を本国に返還するよう求める声や批判が高まっている。

中でも有名なのが、現在のナイジェリアにかつて存在したベニン王国から略奪された青銅彫刻「ベニン・ブロンズ」だ。他にも、19世紀にエチオピアから持ち出されたマグダラ・コレクションや、エジプトのミイラを含む6000人以上の人骨などが論争の的となっている。

大英博物館に展示されている所蔵品の中で最大の物議を醸しているのが、パルテノン神殿の2500年前の大理石の彫刻だ。この彫刻は1806年、英国の外交官がギリシャ・アテネの同神殿から個人的に持ち出した品々だという。これを巡っては、英国に略奪されたものだと主張するギリシャとの間で外交問題にまで発展している。英国政府がこれら彫刻のギリシャへの返還を禁止する法律の改正を否定したことから、ギリシャのキリアコス・ミツォタキス首相は昨年11月、リシ・スナク英首相との会談を中止した。今回の大英博物館の発表を受け、ミツォタキス首相は改めて彫刻の返還を要求。英ロイター通信によると、同首相は「元の場所であるアクロポリスの影で、全体を見ることによってのみ、その計り知れない文化的重要性を真に理解することができる」と訴えた。

forbes.com 原文

翻訳・編集=安藤清香

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