新生「ザ・ドーチェスター」の味わいきれない魅力
ロンドンを代表するクラシックホテルの一つが「ザ・ドーチェスター」である。ロンドンの中心地・メイフェアにあり、ハイドパークのすぐ横という絶好のロケーションを擁する。ブランド店が軒をつらねるニューボンド・ストリートなどにも至近の距離だ。この名門ホテルに新しく加わるべきホットなニュースは、2023年の前半にかけて1階部分とスイートをはじめとする客室を大改装したことだ(2階以上は改装工事を継続中)。
以前には重厚ながらやや暗い印象を否めなかったホテルは、このリノベーションによって一新したと言える。手がけたのは再生請負人として、名門ホテルを幾つも蘇らせてきた手練れのインテリア・デザイナー、ピエール・イブ・ロションである。

隣接する「アーティスト・バー」には英国人アーティストによる6つの作品が飾られ、優美な雰囲気を醸し出す。それぞれの作品にちなんだシグネチャー・カクテルも用意されている。このエントランスから「プロムナード」を経て「アーティスト・バー」まで伸びる空間は、このホテルの印象を決定づける役割を果たしている。誰もが魅了されることは間違いない。

ハード面が秀逸であることのほかに、このホテルの内容面は書ききれないほど充実している。
まず、レストランには、もはや説明するまでもない「アラン・デュカス」、広東料理の「チャイナ・タン」、ステーキハウスとして「グリル・バイ・トム・ブートン」が布陣を固める。『007』の作者イアン・フレミングに深くちなんだ「ヴェスパ・バー」では、スペシャルなマティーニを試したい。「プロムナード」では朝昼食とアフタヌーンティー、「アーティスト・バー」でもアフタヌーンティーが味わえる。

ちなみに、筆者はロンドンの格式高い数々のホテルを知っているが、どこも気高く、気圧されることが多い。その中で「ザ・ドーチェスター」ほどの歴史がありながら、親切でにこやかなホテルはないと言い切れる。とりわけレストランやバーの接客方面にイタリア人が多く、彼らが盛り立てる居心地の良さは格別だ。これはイギリスにいる限り、なかなか稀有なことと言えるだろう。