北朝鮮がパンデミック中に国境地帯に接近した者に対する射殺命令を出したことは、2020年10月に北朝鮮専門メディアのNKニュースが報じているが、KINUの白書に記載された新たな証言は、こうした暗たんたる現実をいっそう裏付けるものだ。
公開処刑は以前から、金正恩政権の政策の特徴となっている。聖書の所持を理由にしたキリスト教徒の公開処刑から平壌のエリート層の粛清に至るまで、革命の芽を摘むために行われてきた。国際人権保護団体の転換期正義ワーキンググループ(TJWG)は2019年の報告書で、脱北者600人への聞き取り調査を基に「国家権力の下に行われた殺人の現場に関する報告が323件ある」と詳細に報告している。証言した北朝鮮人の83%が公開処刑を目撃したと答えたという。
北朝鮮国内の情報を得るのは以前から難しかったが、パンデミックで金政権が実施した徹底的な国境封鎖によって、ほとんど不可能となった。新型コロナ対策を理由とした国境規制は2022年から段階的に緩和されてきたが、脱北者の人数は急減。韓国政府の統計によると、2023年に韓国で自由を手に入れた脱北者は、9月時点で139人にとどまっている。史上最少を記録した2021年の63人からは増加したが、ピーク時の2009年には約3000人が脱北したことを考えれば著しい減少だ。
パンデミック下の北朝鮮の暮らしに関する新事実が明るみに出たことで、この時期の北朝鮮国民の生活状況について、より深い調査の実施が政策担当者に求められている。すでに、食料不安や移動の自由の制限をめぐる懸念が生じている。厳格極まりない国境封鎖だけでも、かつて活況を呈した闇市という不可欠なライフラインから切り離された北朝鮮の人々を心配する声が国際社会から上がった。パンデミック以前は、北朝鮮国民の60%が食料配給の不足を補うため闇市に頼っていたとの推計がある。
北朝鮮国内の状況悪化が判明している以上、国際社会は北朝鮮住民を支援する次の手を打たねばなるまい。一例として米国政府は、北朝鮮政府の人道に対する罪、さらにはジェノサイド(集団殺害)への関与を問い、残虐行為の認定を検討すべきだ。また、韓国ではなく米国への再定住を望む脱北者に対するより迅速な救済措置として、第2優先枠の難民認定拡大を検討する必要もあるだろう。金正恩政権の残虐性についてはこれまでも疑問の余地はなかったが、今回の報告を受け、苦境にある北朝鮮の人々に世界が手を差し伸べるべき緊急性は増している。
(forbes.com 原文)