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2023.12.24 10:30

クリスマスソングが世界最小の「ナノ」レコード盤で聴ける?

Getty Images

デンマーク工科大学(DTU)の物理学者たちは、ホリデー・スピリットたっぷりの「史上最小のレコード」を作ってしまった。彼らが最初の25秒間にフルオーディオで「録音」した曲は、聞いたことのない人がおそらくいないあのホリデーシーズンの名曲、ブレンダ・リーの『ロッキング・アラウンド・ザ・クリスマスツリー』だ。



DTUの研究者たちは、「ナノフラゾール」と呼ばれる新しいナノ彫刻機を用いて、これまでで最も小さな、直径わずか40マイクロメートルのレコード盤を作成したのである。

赤血球にサイン?

「私は30年間、リソグラフに関わってきました。しばらく使っていても、ナノフラゾールはまだSFの世界のプロダクトみたいです」。DTU物理学のピーター・ボッギルド教授は言う。「私たちは、12×16マイクロメートルの領域に10ナノメートルのピクセルサイズでモナリザのコピーを作るなど、多くの実験を行ってきました」。

 ボッギルド氏は続ける。「DTUの創設者、ハンス・クリスチャン・オルステッドの肖像も、254万DPIのピクセルサイズを使って8×12マイクロメートルで印刷しました。これを用いて赤血球にサインを書くこともできるかもしれないと言えば、我々が取り組んでいる縮尺がどの程度か想像がつくでしょう。

ですが、最も斬新なのは、あのクレイジーな解像度でいかなる形の3D風景も作れるということです。このグレースケールのナノレベルのリソグラフは、私たちの研究にとってまさに画期的なものだと言えるでしょう」。

ナノフラゾールは、ある部分を削り取り、目的の形状を残すといった加工手法をとるCNC(コンピューター数値制御)装置である。媒体に材料を加えるプリンターとはこの点で異なる。

「私たちはこれを使ってレコードを印刷してみることにしました。『ロッキング・アラウンド・ザ・クリスマスツリー(米国の60年代の人気歌手、ブレンダ・リーのヒット曲)』の一部の節を使って、ふつうのレコードをカットするのと同じようにカットしました。ただ、ナノスケールで作業しているので、一般的なターンテーブルでは再生できないレコードになってしまいました」。



私たちはナノフラゾールを、オーディオ信号をメディアの表面の螺旋状の溝に変換するレコード切断旋盤として使いました。この場合、メディアの材料にはビニールではなく、ポリマーを使いました」とピーターは話す。

再生には高額な原子間力顕微鏡が必要だが─

「音楽はステレオでエンコードされ、横方向のしなりは左チャンネルで、深度変調は右チャンネルです。ヒットレコードにするには、あまりにも高価なので、市場性は低いかもしれませんね。溝を読み取って再生するにはかなり高価な原子間力顕微鏡かナノフラゾールが必要ですが、間違いなく可能ではあります」

だが、ナノフラゾールのアイデアを可能にしたNOVO財団の助成金、BIOMAGの目的は、クリスマスのレコードを作ったり、有名人の肖像画を印刷したりすることでは決してない。ピーター・ブギルドと彼の同僚であるティム・ブース、ノーラン・ラサリンには、他の構想があるのだ。

研究チームは、ナノフラゾールを使うことで、3Dナノ構造を極めて精細に、高速かつ低コストで造形できるようになると期待している。

「ナノスケールの精度と、想像をはるかに超えるスピードで表面を正確に造形できるようになったという事実は、私たちにとって非常に画期的な成果です。この機械は、新しい構造を試作するプロセスを大幅にスピードアップしてくれるでしょう。

そして実は私たちの本来の目標は、BIOMAGプロジェクトの中で、生きている脳の電流を検出するための新しい磁気センサーを開発することです」

ティム・ブース准教授は最後に次のようにも語った。

「電子波をよりうまく制御できるような、精密に造形されたポテンシャルエネルギー曲面の作成に成功することも楽しみです。やるべきことはたくさんあります」


※本記事はWonderfulengineeringからの翻訳転載である。

Wonderfulengineering 編集=石井節子

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