「AIモデルが開発した新薬は、人間が設計した医薬品よりも優れている訳ではない」と、米国の創薬関連スタートアップ企業Vivodyne(ビボダイン)のアンドレイ・ゲオルゲスク(Andrei Georgescu)最高経営責任者(CEO)は話す。彼によると、その理由はモデルが扱う実験データが少ないことにある。多くの場合、医薬品は臨床試験を行う前に細胞や動物でテストを行う。科学者たちは、新薬が細胞や動物にどのように作用するか把握することができるが、ヒトの患者にどう作用するかは確認できない。
ゲオルゲスクは、こうした問題を解決するためにビボダインを設立した。同社は、新薬の前臨床試験に使用可能なヒト組織と、それらの試験から得られたデータを迅速に収集・分析できるAIシステムを構築している。これは現在主流となっている大規模な単一細胞実験モデルや動物実験に取って代わるものだという。従来の手法では、感染症や特定のがんを治療するための大規模なスクリーニングは可能だが、手間がかかる上、より複雑な疾患にはあまり有効でない。
ビボダインは11月22日、コースラ・ベンチャーズが主導するシードラウンドで3800万ドル(約54億円)を調達したと発表した。このラウンドには、Bison VenturesやMBX Ventures、Kairos Ventures、CS Venturesも参加した。
ビボダインの技術は、ゲオルゲスクがペンシルバニア大学のダン・ハーの研究室で勤務していたときの研究がベースになっている。ハーは、研究向けに生物系システムの小規模モデルを構築することを可能にした「臓器チップ(organ on a chip)」の開発者の1人だ。現在33歳のゲオルゲスクは、2021年春に同大の「キャンパスから少し離れたガレージ」でハーと共にビボダインを設立したと語る。
ゲオルゲスクによると、ビボダインの技術が革新的なのは、単一の細胞ではなく、22種類のヒト組織を培養し、血流や部位間の相互作用をモデル化できる点にあるという。また、ビボダインのシステムは通常の赤血球だけでなく、白血球やその他の細胞も培養し、免疫反応をシミュレートすることが可能だ。