著者は東京大学大学院を修了している工学博士で、専門は原子力工学である。東日本大震災のときには福島第一原子力発電所事故に際し、内閣官房参与に就任して対策に関わった過去を持つほどだ。
それだけでなく、経営のスペシャリストとして日本総合研究所をはじめとする様々なシンクタンクの設立者であったり、TEDや世界経済フォーラム(ダボス会議)といった名だたる組織のメンバーであったりと、非常に華々しい経歴の持ち主である。
唯物論と「運気」
しかし最も重要なのは、著者があくまでも自身のキャリアのスタートが研究者であると考えている点だ。
本書において著者は以下のように記している。
筆者は、大学の工学部で長く研究者の道を歩み、科学的教育を受けた人間である。それゆえ、基本的には唯物論的な世界観によって研究に取り組んできた人間である。
従って、筆者は、何かの宗教団体に属したり、オカルト的なものを信じている人間でもない。
ただ、一方で、筆者は、これまでの六八年の人生において、「運気」と呼ばざるを得ない出来事を数多く体験しており、それゆえ、この「運気」と呼ばれるものの存在を決して否定できないと感じている。
すなわち本書は運気、という掴み所のないものを著者なりに、科学的な知見に立脚した形で解釈しようと試みているのだ。誤解のないように書き添えておくが、本書は決して難解な学術書ではなく、形式はあくまでも自己啓発本のそれである。非常に読みやすく、飲み込みやすい構成と内容であり、途中で挫折するおそれはないだろう。
一口に自己啓発本と言っても様々な切り口がある中で、本書は科学から出発しているという点が特色であるのだ。