回路基板のエラーチェックに「手抜き」が
ディートリンド・ヘレン・サイメク氏が主導し、『Frontiers in Robotics and AI』に掲載されたこの研究は、共同作業環境における人間とロボットの複雑な関係を掘り下げたものである。研究者たちは、チーム内にロボットが存在することで、従来の人間チームと同様のモチベーション効果が得られるかどうかを調査した。
仮説を検証するため、作業員グループに様々な品目の品質検査を担当させた。注目すべきは、これらの作業員の半数が、パンダと呼ばれるロボットによって評価作業が行われたことを知らされていたことである。参加者はパンダの動作を見聞きしただけだったのだ。
作業員に与えられたタスクは、回路基板のエラーチェックであった。研究者たちは参加者を観察し、検査すべき基板のぼやけた画像を提示した。参加者が検査用の鮮明な画像を見るのは、自分から積極的に選択してからである。
当初、研究者たちは、2つのグループ(ロボットと一緒に作業していると知らされたグループとそうでないグループ)が回路基板を調べるのに費やした時間や、エラー箇所を探すのに費やした時間に大きな違いはないことを発見した。しかし、エラー率を分析したところ、興味深いパターンが浮かび上がった。パンダのそばで作業していた人たちは、特にロボットがエラーのフラグを立てるのを目撃した後、より少ない欠陥を特定することがわかった。
パンダの欠陥検出能力に依存
この現象は「見ているようで見ていない」効果といわれ、同僚を信じている場合やリソースの信頼性が高い場合、個人はあまり関与しない傾向がある。参加者たちは、自分のタスクに同じだけの注意を払っていると自己申告したが、研究者たちは、彼らが無意識のうちにパンダの欠陥検出能力に依存し始めていると考えた。
研究の上級著者であるリンダ・オンナシュ博士は、視覚情報が精神的に十分に処理されているかどうかを評価することの難しさを指摘した。人がどこを見ているかを追跡するのは簡単だが、認知的関与の深さを測るのははるかに複雑だ。
要するに、作業チームにロボットを導入することは諸刃の剣なのだ。ロボットは共同作業を通じてモチベーションを高めることができるが、その一方で、個人の貢献が見えにくくなるため、個人のエンゲージメントを低下させることにもなりかねない。
この研究は、人間とロボットが共に働く際に生じる複雑な心理的力学に光を当て、職場におけるロボット工学の未来に貴重な洞察を与えるものである。
(この記事は、英国のテクノロジー特化メディア「Wonderfulengineering.com」から転載したものです)