カルチャー

2023.12.02 11:00

「はじめてのおつかい」が海外で大反響、想定外の論争も

石井節子
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日本では「小学3年生以下の子どもだけでの外出NG」の法案が大バッシング

これは日本人にとって受け入れがたい感覚だろう。日本では、子どもの「おつかい」や留守番が日常の一部に当然のように組み込まれており、実際、筆者も小学校低学年の頃には既にそうしていた記憶がある。13歳で一人きりになれないというのは、率直に言って窮屈とさえ思えてしまう。

一方、日本ではそもそも、常に子どもへ目を配るのに十分な環境が整備されていない、という家庭も少なくないはずだ。先日、埼玉県の自民党県議団が「小学3年生以下の子どものみでの外出や留守番」を禁じる埼玉県虐待禁止条例改正案を提起して激しい批判を受け、撤回に追い込まれた事例は記憶に新しい。批判内容の多くは「生活が成り立たなくなる」という切実なものだった。

価値観や法律、そして目の前の現実、それら全てに合致しているからこそ「はじめてのおつかい」は日本で長く愛されてきた。しかし一度海を越えると、それは大きなカルチャーショックを生むのである。

「日本の治安」に大賞賛も

ただし、子どもの扱いについて、欧米と日本の間に優劣をつけてしまうのも早計だろう。

前出の米タイムス誌は「『オールド・イナフ』のような番組がアメリカで製作される可能性は極めて低い」としたうえで、「(日本でこの番組が成立しているのは)犯罪率の低さと銃規制の強さのおかげだ」と賞賛を寄せている。

つまり「アメリカでは子どもを一人きりにしなくてよい環境が整っている」と言える一方、「日本では子どもを一人きりにしてよい治安の良さがある」とも言えるのだ。

どちらも改善していくことこそが理想であるとは言え、国ごとにどのような違いがあり、何が優先されるかは歴史や文化に深く根差しているのである。国が異なれば、児童虐待のボーダーラインすらも大きく変わるのだ。グローバル社会と叫ばれて久しい現代においても、確実に。

「かわいい子には旅をさせよ」?

ただし、価値観は不変のものではない。「はじめてのおつかい」の放送が始まって30年以上が経過しているが、その時間の中で子どもに対する危機意識は高まっているように思われる。以前と違い、今では多くの小学生が防犯ベルやGPSつきのスマートフォンを持っており、親は、直接的ではないにせよ、子どもを「一人きり」にさせない努力を重ねるようになった。そのような流れは人々に、「3歳の子どもにおつかいを頼む」という文言から受ける印象を変化させ始めているかもしれない。

もし今、まったく新しく「かわいい子には旅をさせよ」を地で行く番組が作られれば、少なくないクレームが寄せられることは容易に想像できる。転じてそれは「はじめてのおつかい」の、長寿番組としての実績あってこその美点であると言えるだろう。

国ごとに価値観こそ違えども、根底にある想いは共通している。それは「子どもたちを危険な目に遭わせたくない」という想いだ。子どもたちが安心して暮らし、時には「おつかい」のような小さな大冒険に出て自信や達成感を得て帰ってくることができる、そんな環境を目指していきたい。

文=松尾 優人 編集=石井節子

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