多様に組み合わされる、技術スキルと社会情動的スキル
中国・深センの科学技術エコシステムや、ジャカルタのソフトウェア拠点など、アジア太平洋地域はデジタルスキルの宝庫であると言えます。興味深いことに、同地域のスキルマトリックスは、プログラミングのソースコードやニューラルネットワークの構造に限らず、技術スキル、分析スキル、社会情動的スキルなどが組み合わさり、多様なスキル要素が混在しています。「仕事の未来レポート」は、世界経済フォーラムのグローバル・スキル・タクソノミー(分類法)を用いた調査から得た、現在および将来的に重要となるスキルの把握に役立つ世界中の雇用主の洞察をまとめています。
2023年に、アジア太平洋地域で最も重要視されているスキルは分析的思考で、この傾向はアジア開発銀行の予測によっても確認することができます。重要視されている現在のスキルに関して、最もグローバル平均との差が開いたのが、デザインとユーザー・エクスペリエンスおよび読み書きと数学でした。
同地域では、31%の雇用主がこの2つのスキルを重視しているのに対し、グローバル平均ではそれぞれ24%、25%となっており、同地域の労働市場においてデジタル・インターフェースと基礎知識の両方を兼ね備えた労働力が求められていることが分かります。
また、東アジア・太平洋地域では、創造的思考の重要性が高まっていることを反映して、回答者の78%が、職場におけるその価値を認識してます。
日本とシンガポールでは、調査対象となった経営幹部の5人に4人以上が、創造的思考の重要性は今後も増大していくと回答。この予測は、PwC(プライスウォーターハウスクーパース)が同地域で行った最新の調査結果と一致しており、従業員に対する調査では、今後5年間で、クリティカルシンキング(66%)などの対人能力が、技術的スキルや主要なビジネススキルよりも高く評価されるようになるとの回答が得られています。
さらに、国際的なサプライチェーンに組み込まれた経済に不可欠なグローバル・シティズンシップの重要性も高まっています。
例えば、香港特別行政区(56%)とインドネシア(56%)では、このスキルへの需要がグローバル平均を20%も上回っています。一方、マーケティングとメディア、手先の器用さ、持久力、精度に関するスキルの重要性は、より低くなるであろうと雇用主は回答しています。
今後5年間で、分析的思考、AI、ビッグデータが、グローバルなリスキリングの流れに追随する中、アジア太平洋地域では、独自の視点で企業のリスキリングとアップスキリング(技能向上)の取り組みが行われてます。21%の組織が、システムシンキングを研修プログラムの優先事項としていることは、統合的かつホリスティック(全体論的)な課題解決アプローチに対する需要が同地域で高まっていることを示しています。
オーストラリアでは、雇用主の4分の1以上(26%)が、システムシンキングに関するリスキリングとアップスキリングのプログラムに投資をしたいとしています。
DEIの推進により、人財流動性を高める
複雑に相互接続された今日の世界において、アジア太平洋地域では、ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン(DEI)を推進して地域の人材流動性を高める動きが、労働市場に大きな影響を与えています。インドネシアやタイでは、若い多様な人材のポテンシャルを最大限に活用している一方、日本やオーストラリアなどの先進国は、技能を持った移民の受け入れを拡大し、高齢化する労働力を補完しようとしています。