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2023.11.12

賛否渦巻く環境問題 真理はデータの中にある

各界のCEOが読むべき一冊をすすめるForbes JAPAN本誌の連載、「CEO’S BOOKSHELF」。今回は、アルバトロス・テクノロジー代表取締役の秋元博路が『世界の再生可能エネルギーと電力システム[風力発電編]』を紹介する。


世界のビジネスリーダーを見渡すと、ビジネスの最も大きなリスクに「環境」を挙げる人は少なくありません。「このまま環境問題を放置すれば、いずれビジネスの限界が来る」と、この社会問題を自分ごとととらえているからです。その一方で、日本企業は環境対策をCSR(企業の社会的責任)の一環だと考えている企業も多く、「本業を通じて貢献している」と公表しているのをよく目にします。本当にそれだけでいいのでしょうか。

ご存じの通り、日本のエネルギー自給率は、OECD諸国のなかでも低く、海外からの供給が途絶えれば経済的に大きなダメージを受けてしまいます。実際、新型コロナウイルス感染拡大を機にガソリン代や電気料金などの上昇が続き、今でも幅広い業界に多大な影響が及んでいます。経済にも環境にも密接するこのエネルギー構造を、化石燃料から「再生可能エネルギー」へと変える動きは活発化していますが、それでもなお歩みは遅く、今後さらに大きな課題となるはずです。

本書は、再生可能エネルギーと電力システムの現状や将来予測、コストなどについて比較・分析しているうえ、世界と日本の違いや、それを生みだしている誤った認識とあるべき姿についても科学的に述べられています。豊富で見やすいデータやグラフを眺めるだけでも、風力発電の将来性を理解することができ、データとエビデンスに基づいた知識が身につきます。

私は、低コストで、かつ高い国内調達率を実現できる「浮体式垂直軸型風車」を開発しています。この浮遊軸型風車は、遠浅の海が少ない日本に適した方法であり、再生可能エネルギーの普及を加速させ、脱炭素社会を実現するものだと、今、多くの期待をいだいています。

日本は、海に囲まれた島国です。実は、世界から遅れをとっているように見えるこの養生発電分野でも、世界に先駆けて研究・開発を行い、実証プロジェクトを進めていた時代もありました。大きな海は我々に豊富な食材だけでなく、クリーンなエネルギーももたらしてくれる恵みの海なのです。

再生可能エネルギーに対しては、環境原理主義者と呼ばれる方々とそれに反対する勢力、それぞれの主張がぶつかり合い、極端すぎる意見も耳にします。大事なのは、どちらにも属さず、ニュートラルで、現実をしっかりと照らし出すデータやエビデンスです。本書で紹介している内容にはアップデートが必要なものもありますが、この社会問題を正しく理解するために役立ってくれるでしょう。日本と世界の未来を考えるうえで、ぜひお読みいただきたい一冊です。

title/世界の再生可能エネルギーと電力システム[風力発電編]
author/安田 陽
data/インプレスR&D 1540円/152ページ
profile/1989年横浜国立大学工学部卒業後、同大学大学院博士課程後期課程修了。博士(工学)。関西大学工学部(現システム理工学部)准教授を経て、2016年よりエネルギー戦略研究所取締役研究部長。日本風力エネルギー学会理事。


あきもと・ひろみち◎東京大学工学部船舶海洋工学科卒業後、1996年同大学大学院博士課 程修了。東京大学などで船舶海洋工学を専門とする大学教員だったが、3.11の震災をきっかけに、2012年に研究開発型企業としてアルバトロス・テクノロジーを起業。22年株式会社化。

文=内田まさみ 写真=タワラ

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年11月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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