市況だけが理由でこの結果につながったわけではない。世界の海運企業と比べてみても、ONEの運航規模(コンテナ船の積載量で測る企業の規模)自体はコンテナ船業界第6位(17年の設立時点)だが、利益率は22年に世界トップとなったのだ。
3社のコンテナ事業がひとつになって誕生した日本生まれのシンガポール企業はどうやって創業4年目で世界一の利益率を生み出したのか。
日本の貿易は、99%以上が船による海上輸送だ。そのなかでも食品や家具、電化製品の部品など我々の生活に必要なものの多くを運ぶのがコンテナ船事業だ。世界の人口増加や経済成長に比例してその需要は伸び、運航規模が大きいほど優位となり、長期的に成長が見込まれる。一方、燃料高など景気の影響を受けやすく、さらに近年は海外の大手コンテナ会社が買収・合併を通じて運航規模が拡大し、邦船3社のコンテナ船事業では苦戦が続いていた。「どうにかして日本のコンテナ船事業の力を取り戻したいという使命感がONEの設立につながった」と語るのは、創業からONEに携わる取締役、マネージング・ダイレクターの岩井泰樹だ。
データで動くコンテナ船
ONEは現在、世界で200隻以上のコンテナ船を運航し、120カ国以上をコンテナ輸送サービスで結んでいる。運用するコンテナ本数は約170万本と膨大な数にのぼり、オペレーションも複雑だ。「このビジネスは計画通りの完璧を目指すことはできません。100点のテストに例えれば、業界全体で平均点は70点ぐらい。効率化・最適化の工夫をして75点を目指します」と岩井は話す。
「例えば次の港が混んでいることがわかれば、船を減速することで燃料消費を抑えたり、寄港予定の港の順番を入れ替えたりすることでムダな燃料消費を抑え、効率良くコンテナを運ぶことができます。すべての船、1つ1つのコンテナでこうした取り組みを重ねるため、たった5点の差でも結果的に大きな違いになるのです」
運航規模は世界6位でも利益率で1位の理由はこの「5点差」をつくる工夫にある。コンテナすべてをモニタリングし、空になったコンテナを次に備えてどこにどう運ぶのが最適か、常に予測する。「24時間データサイエンスみたいなことをしているので、オフィスに来た人はシミュレーションの現場を見て驚きますね」。
最適化の取り組みは、コンテナ1本1本の積み方にも及ぶ。重いコンテナを上部に積むと船の揺れが大きくなってしまったり、港で積む順番を考えないと荷物の揚げ降ろしに余計な時間がかかったりと、積み方次第で積める量だけでなく船の安定性や港での停泊時間などが変わってくる。「難易度の高いパズルみたいに緻密な計算が必要になってくるんです」。
積み方を決める業務はプランニングと呼ばれ、日本に寄港するONEのプランニングは熊本県の「次世代海上コンテナ輸送研究所(AOCTEL)」で行っており、運航を24時間365日支えている。