廃棄物に新たな付加価値を与える「アップサイクル」。誰もが知る人気冷凍食品の生産時のロスは、意外なものに生まれ変わっていた。
生活雑貨店・ロフトの店内に並ぶ、ニチレイフーズ(以下、ニチレイ)の「冷凍焼おにぎり」を模したパッケージ。そこには「焼おにぎり除菌ウエットティッシュ」の文字が。実はこれは、ニチレイ「焼おにぎり10個入」生産時のごはんの残渣(残りかす)から製造したエタノールを使ったウエットティッシュ。ニチレイとして初のアップサイクル商品だ。
同社はこれまでも残渣をリサイクルしたり、流通できない製品を寄付する活動等をしてきたが、不要物から経済的付加価値を生み出すサーキュラーエコノミーについては、自社だけでは完結することが困難で取り組めていなかった。そこで発酵技術を活用し食品の残渣から機能性素材を製造、これらを用いたアップサイクル製品を企画・製造するファーメンステーションと協業を開始。まずは製造工程で出る残渣の精査を行った。ニチレイはさまざまな冷凍食品を製造しているが、例えば主力の炒飯の残渣は油分や具材が混じり発酵に適さない。そこでロングセラー商品「焼おにぎり」に白羽の矢が立った。
プロジェクトを主導したニチレイの原山高輝は開発にあたり「真面目にふざける」ことを意識。遊び心が発揮されたパッケージは「身近な商品を通じてアップサイクルやSDGsに興味をもってもらいたい」との思いから誕生した。ファーメンステーションの酒井里奈「SDGsを大上段に構えることなくアップサイクルを知ってもらえる商品ができた」と話す。アップサイクルのストーリー性や見た目の面白さだけでなく品質も重視。原山は「ニチレイの名がついている以上は食品と同じような基準で作らないと、と社内から助言を受けた」と振り返る。除菌性能テストを実施し安全性と品質の基準にも配慮した。
反響を受けて誕生した第2弾の「今川焼ウエットティッシュ」は、こども達の職業・社会体験施設のキッザニア福岡で、今川焼の品質を五感で評価する「官能評価」の仕事体験に参加した子どもたちに配布されている。「『さっき食べた今川焼からつくられたんだよ』と伝えることで未来を背負う子どもたちにアップサイクルを知ってもらえる。食品メーカーとしていつか食べられるアップサイクル商品を生み出してみたい」(原山)。
「冷凍と発酵という異なる機能をかけ合わせればもっと多様なことができる」(酒井)。アップサイクルの今後に注目だ。
原山高輝◎ニチレイフーズマーケティング部広報グループ。2019年より現部署でブランディングや新規事業等に携わる。
酒井里奈◎ファーメンステーション代表取締役。企業勤務の後東京農大入学。09年に卒業後ファーメンステーション設立。