当時、ナハルオズ基地にはイスラエル軍の超重量級の装甲兵員輸送車が少なくとも13両あった。重量49トンのアチザリット12両、同70トンのナメル少なくとも1両などである。ハマスはメルカバ戦車数両とともに、これらの装甲兵員輸送車も鹵獲(ろかく)したり焼損させたりしたとみられる。
ナメルは特別な車両である。世界で最も防御力の高い装甲兵員輸送車であるからだけでなく、2014年にガザであった紛争で中心的な役割を果たした兵器でもあるからだ。砲塔を取り除いたメルカバの車台の上に数十トンの装甲を追加したナメルは「動く掩体(えんたい)」と呼ぶにふさわしい車両だ。激しい戦闘のさなかにあっても、乗り込んだ歩兵に安全な場所を提供してくれる装備なのだ。
イスラエル軍が約300両のナメルを重宝している理由を理解するには、2014年7〜8月にガザで繰り広げられた激しい戦闘を思い起こすといいだろう。パレスチナのヨルダン川西岸地区でハマスが10代のイスラエル人3人を拉致・殺害したあと、イスラエルは報復作戦に乗り出す。ハマス側もロケット砲攻撃で応酬し、戦闘はエスカレートしていく。
7月19日、イスラエル軍のゴラニ旅団はガザ市のシュジャイヤ地区に進軍した。当時、同地区には10万人近くが住んでおり、ハマスは基地として使っていた。1日目は静かに過ぎた。だが2日目、地下トンネルから出てきたハマスのロケット砲部隊がイスラエル軍のM113装甲兵員輸送車1両を撃破し、イスラエル兵7人が死亡した。
イスラエル軍はM113の残骸と中の遺体の回収を決意する。ゴラニ旅団の工兵部隊は残骸を装甲車両で隔離し、牽引(けんいん)しようとしたが、ハマス側の猛火にさらされ、作業は難航した。工兵部隊の車列周辺で熾烈(しれつ)な接近戦になり、イスラエル側の損害は膨らんだ。
M113の7人に加え、イスラエル側はさらに6人が死亡した。カタールの衛星テレビ局アルジャジーラによると、イスラエル軍参謀総長の軍属の顧問は当時「ハマスの戦闘員は想定以上の頑強さを示し、私たちの装甲部隊に対して想定をはるかに上回る応戦態勢を整えていた」と述べている。