ふるさと納税制度が無くなったら、どうする?
クレイ:境町を訪れる人が増えそうですが、企業集めについてはどうでしょうか。
橋本:境町はいま、ドローン配送でレベル3(人がいない場所を飛行しての配送)のサービスを行っていて、市街地でも運用可能となるレベル4を目指しています。レベル4が実現すると国内初になります。そして、すでに行っている自動運転バスの公道での定常運行、これも自治体としては国内初で、うちの取り組みをきっかけに北海道上幌町と愛知県日進市でも自動運転バスの運行が始まっています。
よく、民間の方が自治体と組むと、前例がない取り組みを断わられたり、規制の壁にぶつかって苦労されている話を聞きます。
でもうちでは「町が規制を変えるので、どんどん来てください」と話しています。我々からしたら企業が町に来てくれるなんて、そんないい話はありませんよ。境町をどんどん使ってもらって事業を成功させてほしいんです。そうすれば企業は町でのイメージは良くなるし、住民にとってはその企業がある町に誇りが持てるようになる。好循環が生まれると思うんですよね。
クレイ:最後に気になるのは、個人版、企業版と、ふるさと納税の制度がいつまで続くかということです。制度が終わった時はどうされますか?
橋本:制度としてここまで大きなものになったので簡単にはなくせないのではないか、しばらくは続くのではと個人的には見ています。ただ、いつなくなっても良いように、その時、雇用を継続できるように考えてはいます。
ふるさと納税の返礼品で干し芋やうなぎを出しています。町では、もともと、干し芋は食べる文化しかありませんでした。さかいまちづくり公社の野口富太郎社長から「いま干し芋が売れているから、工場をつくりたい」という話を聞き、国の補助金で工場を建設しました。そうすると、境町産の干し芋は、ふるさと納税でも人気商品になりました。
翌年からは、干し芋で使う紅はるかを、廃業予定だった5軒の葉タバコを生産していた農家さんにお願いし、生産してもらいました。できたサツマイモはすべて町が買い取っています。境町では、逆の六次産業化が起こり、好循環になっています。
いまは宮崎県内の企業からうなぎを仕入れて、町内の加工場で焼き上げからパッケージまでを行っています。もしふるさと納税がなくなっても、この企業が関東圏で販売する蒲焼きを境町工場からの出荷に切り替えようという話があり、そうすれば雇用が維持できるという約束で、うなぎ工場も誘致しています。
ふるさと納税の制度がなくなっても産業として残り、雇用を維持できる。そういう、自走できるようなかたちづくりを念頭に企業誘致もしています。
クレイ:お話を聞いていて、つくづく発想が経営者だなと思いました。今後の打ち手も楽しみです。
橋本正裕◎1975年茨城県境町生まれ。芝浦工業大学工学部建築工学科卒。明治大学公共政策大学院ガバナンス研究科修士課程修了。フィリピン共和国マリキナ市立大学客員教授、立教大学社会デザイン研究所 特別任用研究員。デジタル庁「デジタル公共交通のありかたに関する研究会構成員。2014年境町長に初当選。現在3期目。就任後は、ふるさと納税8年連続茨城県1位、2017年より6年連続関東1位の寄付額を獲得。全国市町村最多となる隈研吾建築施設の整備、自動運転バスの公道定常運行の開始など、全国に先駆けた取組みを数多く手掛ける。