スタートアップ

2023.11.05 11:00

村道が廊下、村民がホテルキャスト。人口700人小菅村の「幸福な宿」とは

1日700組が来訪する、都心のホテルマン時代


群馬県出身の谷口さんは、大阪の大学を卒業後、全国にある高級会員制ホテルを経営する総合リゾート業社へ就職。5年間働いたのち、妻のひとみさんとともに、オーストラリアへ留学する。留学という選択肢は、ふたりにとってどういう意味だったのだろう。

「僕たちが働いていた都内のホテルは、約300室の客室があって、1日に700名のゲストが来るような場所でした。人数は多いけれど、チェックインの時間帯は変わりません。必然的にお客さまを事務的にさばく形になってしまうことへの違和感は日増しに大きくなっていきました。当時、僕はロビーアテンダント、妻はエステティシャンとして働いていたのですが、2人とも過労で体調を崩してしまったんです」

自分たちの価値観とズレのあるサービスに葛藤を感じていたおふたりは、仕事も、ライフスタイルも、リセットできる環境を求めてオーストラリアへの留学を決意した。

オーストラリアで出会った、自分らしい価値観


オーストラリアは、自然療法と呼ばれる薬を使わずに自然治癒力で体にアプローチする手法が一般的だったことから、ひとみさんは本格的なマッサージの資格を取得。谷口さんは、趣味でトライアスロンをやっていたことから派生して、フィットネスの学校へ通い、解剖学や栄養学を学んだという。

「そうした日々のなかで現地の人は、家族のために働くから定時で帰るし、休日はちゃんと休む。そういうライフスタイルを目の当たりにしました。東京とオーストラリアにいる自分たちを比べたら、オーストラリアで暮らしていた自分たちの方がしっくり来たんです。日本に帰っても、この感覚を残したままで居られる場所に暮らしたいと思うようになりました」

谷口さん夫婦がオーストラリアで得たものは、知識や技術だけではなく、生きることに対する価値観そのものだった。

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オーストラリアの小さな村と重なる小菅村


「オーストラリアのクイーンズランド州に、クリスタルウォーターズという人口100人の小さな村があるんです。そこで人と自然の持続可能な営みをデザインする、パーマカルチャーを軸とした宿を訪れました。いわゆる“オフグリッドな暮らし”を今も実践している人口100人足らずの村では、太陽光で電気を貯めて、雨水を再利用して、自給自足のお野菜を中心とした食事を摂る、という生活を体験しました。村にはカンガルーがたくさんいて、ギターを弾いて歌っている人がいたり、すれ違う時に手を振ってくれる人がいたり。そこで心が打ち震えるような感動を味わい、ここに住みたい!こんな宿をやりたい!と思いましたね」
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文=中城明日香

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