“なんでもできる人”にはなりたくない
──2021年にはショパン国際ピアノコンクールでセミファイナリストになりました。この時期には既に、国内外でのコンサートのほかYouTubeやテレビなどでも活躍されていましたが、そんな中で改めてクラシックのコンクールにチャレンジした理由は。既に有名になっていたとはいえ、 “なんでもできる人”にはなりたくなかったんですよね。自分の軸はクラシックにあって、その土台の中で常に新しいことをしていきたい。そのためにはクラシックをもっと勉強していく必要があると思っていました。
ただ、それでも何度も考えましたね。自分は何のために出るのか、やっぱりやめようかな、とか。ショパンコンクールの時期は気持ち的にも辛い時期だったと思います。
結果的には、ショパンの作品と長い間向き合ったことで、ショパンという作曲家の美意識が自分の中にインストールされた感覚があります。
僕はショパンの「Simplicity is the final achievement(シンプルさは最終的な目標である)」という言葉が好きなのですが、正にその言葉の通りで、ショパンの音楽ってとても自然に流れていくんですよね。
どこか即興的でありながらもすべてが完璧で。しかし、それをさも完璧であるかのように言わないお洒落さも兼ね備えている。そんなショパンの確固たる美学に、大きな影響を受けました。
──ジャズ、クラシック、ポップス、ロックの4大タイトルの大舞台に立った角野さん。ジャンルを横断して活躍するために、心掛けていることはありますか。
何よりも“インプット”が大切だと思います。
ひとつの世界(ジャンルや業界)の中にいると、その中のルールが当たり前だと思って生きるから、そもそも疑問を持たないじゃないですか。複数の世界に目を向けるようになると、その世界どうしを初めて比較できるようになるんですよね。
そうすると、「共通点」と「違う部分」が見えてきて、自分が元々いた世界の解像度すらも高くなる。それはクラシック音楽にも言えることだし、他のジャンルにも言えることだと思います。
そんな風に、自分が生きている世界を外から見られるようになると、“ジャンル”を超えて物事を考えられるようになるのではないでしょうか。