自分ごと化で「勝ち筋」に到達できる
上野山:あらためて生成AIの正体を考えると、これはディープラーニングネットの巨大な進化形です。つまり10年ぐらい前から粛々とAIが進化してきた結果であり、決して一時のハイプ(熱狂)ではありません。「ソフトウエアがAI化していく」という流れは、確定した未来ですから。松尾:変化する方向も明らかに見えているし、5年、10年前から、その方向に向けてずっと進んでいます。ただ、先に言ったようないろんな障害があって、素早い変化をなかなか起こせない。その障害を一生懸命に取り除きながら「見えている未来の方向」に向かっていると僕は認識していたし、多くの人もそう認識しているだろうと思っていたら、実は「わかっていない人」も多いことに最近あらためて気づきました。その意味でも、もっとかみ砕いてわかりやすく発信しなければと思っています。
上野山:無理もないと思うのが、情報技術やデジタルに専門で向き合う機会が少ない方々は、こうした変化を「点」で見るからです。でも、僕や松尾先生は、テクノロジーの変化を過去からずっと続く「線」で見ている。するとわかるのは、ソフトウエア産業の50年ぐらいの歴史は、インターフェイスの切り替えをずっと繰り返しながら「人間側に近づいてきた」ということです。
ソフトウエアがどんどん人間にとってフレンドリーになってきているのが確定した流れなら、生成AIが決してハイプじゃないことがわかるはずです。特に若い読者にお伝えするなら、いまは明確にアルゴリズムが入れ替わり始めた時代のど真ん中にある。古いアルゴリズムを理解しながらも、好きなことに生成AIを使ってみて実際に体感するアクションを勧めます。
松尾:企業の人は、先の3ステップを参考にやってもらえればいいと思います。国レベルで言うなら、世界中で同時に盛り上がっている生成AIに対して、日本がルールづくりをリードしていくというのはG7での広島AIプロセスのミッションでもあるので、もちろんやらないといけないことです。
でも、国内で僕がずっと言っているのは、日本全体で「GPUの計算リソースを増やさなくてはいけない」ということ。それはまさにAIにおけるインフラ投資であって、国がしっかり支援すべきと思います。あとは、みんながそれぞれで頑張ればいい。よく僕は「日本の勝ち筋は?」「日本人の強みは?」といったことを聞かれますが、基本的には、ハイサイクルで試行錯誤をして、指数的な成長を阻害しないようにするだけです、と答えています。
上野山:いまの問いの「日本」や「日本人」という主語は、すべて「実際にはいない主体」ですよね。そういうあやふやな主語で議論した瞬間、すべてが「他責」になっていく。だから、うちの社内には「デカい主語禁止」というルールがあるんです。「自分はどうしたいのか」とか、せめて「自分たちの会社は」と言うべき。動かせるレバーがない主語で議論したって意味がないですから。