上野山:しかし、現実にはステップ1にもハードルがある組織があります。
松尾:そう、ChatGPTが使用禁止の企業も多くあるわけです。「まだ使える仕組みを整えていない」「ガイドラインをつくらないといけないので大変だ」という具合に。やったらいいことが明確なのに、現行のシステムや組織では実際上、やることが難しい。権限をもったトップがリーダーシップを取ってやればいいですが、なかなかそんな具合にも進みません。
変化を阻むのは「古いアルゴリズム」だ
上野山:企業内の人にとって難しいのは、やらなくてはいけない課題が明確でも、古いアルゴリズムが人間を制御してやらせてくれないこと。あらゆる場面で言われる話ですが、新しいアルゴリズムにジャンプできないことが最大の問題です。松尾:そもそも、世の中の問題は「根っこ」をたどると数えるほどしかなくて、すべての問題がそこから派生しています。例えば、ITベンダーのスピード感に欠ける多重下請けシステムはどの会社にも悪気があるわけでなく、歴史的経緯もあってそうなっています。でも、いまの時代における行動の戦略は単純で「ハイサイクルで試行錯誤の数を増やして、そこからいいものをくんで、悪いものをやめる」ことをやるだけですごく成長するし、スピードは上がります。やったほうがいいに決まっているけれど、既存の仕組みだと障害が多いですよね。
上野山:同じく、企業でデジタルリテラシーが高い人物を登用したいのに、「まだ若いからダメ」みたいな事態になるのも、システムやルールの前提がアップデートされていないからです。
松尾:年齢うんぬんというのも、また根本的な原因のひとつです。外形的なことにかかわらず、優秀な人物を評価して、そうでない人物を評価しなければいいんですよ。本当に簡単なことなのに、それができない。
上野山:デジタルが真っ先に変わって、次にコンシューマーが変わって、最後にシステム側が取り残されてアップデートされないという構造的な問題があります。難しいのは、やはり古いアルゴリズムが強い組織。そこで本来やるべきは人事制度の変革ですよね。人事制度は「いい」と「悪い」を評価するものですが、そのパラメータを変えなくてはなりません。昔の「いい」の基準のままだと、いまの時代の「いい」人は正当に評価される新しい組織に流れやすいです。