ハードウェアよりも「プラットフォーム」
一般的な養蜂箱には、正六角形のセル(巣穴)約6000からなるフレーム(木枠)が10入っており、全体は6万ほどのセルで構成されている。ミツバチはここに卵を産んで幼虫を育て、ハチミツを蓄える。シンプルで使い勝手がよい構造であり、だからこそ、150年以上も使われてきた。BeeHomeは既存の木箱の仕組みを踏襲しているが、18万のセルからなる30フレームに変えて容量を拡張した。当然ながら、ハチミツの収穫量も大幅に増えることになる。それでもBeeHomeの特性は、ハードウェアそのものや容量よりも、「プラットフォーム」のほうにある。低価格の既成品を組み合わせて、そのうえに彼らが開発したソフトウェア・プラットフォームを構築した。それで十分なのだ。
目的はあくまで養蜂家の負担を減らしつつ、24時間365日、ミツバチを守ること。そのために、目や頭脳、手といった人間の能力を“拡張”し、決して疲れることなく仕事を肩代わりできるコンピュータ・ビジョンとAI、ロボットを使っている。プラットフォームの利点のひとつは、改善し続けられることだ。
それにモバイルアプリを使えば遠隔地からでも、ダッシュボード上で確認するだけで、ミツバチの異変に対してすぐに手が打てる。
近年、世界的にミツバチの養蜂箱の数は増えており、BeeHomeへの関心も高まっている。コロナ禍で食料自給率など「食の安全保障」への危機意識が高まるなか、シンガポールやUAEの投資家からの出資が増えている。ミツバチが食物連鎖で重要な役割を果たしていると、気づく人が増えているのだ。
それでも、サフラは「ミツバチを救うためにビジネスをしているわけではない」と断言する。「株主やステークホルダーに利益を還元できる会社に育てようとしているのです。でも、その過程でミツバチを救えるかもしれない─。それなら、最高にうれしいですよね」
ビーワイズ◎2018年創業、イスラエルのAIロボティクス企業。CEOはサール・サフラ。AI×コンピュータ・ビジョン×ロボティクスでミツバチの養蜂箱を刷新。アプリを使って温度管理や投薬ができるプラットフォームを構築した。22年3月には、インサイト・パートナーズが主導したラウンドで8000万ドルを調達。累計で1億2000万ドルの資金を調達している。