浸透のカギ握るカリキュラムマネジメント
家庭科の教員にとって共通の悩みが授業時間の少なさだ。多くの高校では1年間で週2時間にすぎない。国府台高校の場合、家庭科の授業は2年生が対象。「経済分野に割くことができるのは年間5~6時間。このうち、資産形成の授業は1~2時間」(国府台高校の黒田教諭)にとどまるという。だが、消費者教育も含めた金融経済教育に充てる時間数を増やすのは難しい。高校の家庭科教員の経験がある実践女子大学生活科学部の髙橋桂子教授は「家庭科では資産形成教育を行い、社会科で契約の概念やクーリングオフについて学ぶなどのカリキュラムマネジメントが重要」と説く。
もっとも、科目横断的な取り組みはそう簡単でない面もある。カリキュラムマネジメントには学校全体の理解が欠かせない。「教員の多くは人間関係の構築が苦手」との本音も現場からは漏れる。ある都立高校の副校長は「異なる科目の教員間の連携を調整するコーディネーターがいないと難しい」と話す。
金融機関などが提供する教材の共通化も課題の1つだ。資産形成教育の始動を機に、銀行、証券、生保などの各企業や業界団体が競い合うように独自の教材を作成。教育の現場からは「教材が多すぎて、その研究に費やす時間が足りない」との悲鳴が上がる。
長年にわたって資産形成の啓発活動を続けるフィンウェル研究所の野尻哲史代表も「教える側の負担を増やしている」と話す。
「教材はいずれも上手に作られているが、使う側からするといったいどれを使ったらいいのか、あるいはどれがわかりやすいのか…」(野尻代表)。
金融経済教育は高校だけに委ねるのでなく、小学校や中学校など早い段階から着手することも必要だろう。そうすれば、「子どもたちの興味の持ち方や知識吸収の度合いが変わるはず」(前出の黒田教諭)。
実践女子大の髙橋教授は、新潟の小学校で同教育の実験授業などに携わる。授業では5年生や6年生に小遣い帳を用意し、おカネの使い方や使った金額を書いてもらう。
児童は「自分のために使う」「家族のために使う」「ただ単純に貯める」「未来のためにためる(投資)」という4つの使い方の欄に金額を記入する。もらったおカネの使い道は自ら判断して決めることが大事。「意思決定させるのは家庭科の授業の肝」(髙橋教授)との考えが根底にはある。
経済格差是正への取り組みも重要
前出の都立国際高校の岩澤教諭は「家庭でも金融の話題に関する意識の違いがあるため、同じ話をしても生徒の理解の程度や、その後の行動変容が大きく異なる」と問題点を指摘する。金融経済教育への対応は高校によって「温度差」を伴うのが現状。各家庭の金融リテラシーの相違と無縁ではなかろう。リテラシーの違いは経済力や経済情報への接触頻度などに起因するとされる。それだけに、金融経済教育の浸透には経済格差の是正も必須だ。
2024年には「金融経済教育推進機構」が設立される見込み。金融庁や文科省など関係省庁間の垣根を超えた取り組みが求められるのは論を待たない。