貧困家庭の高校生の力に。善意を仕組み化するための「触媒役」に

認定NPO法人CLACK 理事長 平井大輝 写真=帆足宗洋(AVGVST)

「デジタルを使った子ども支援のインフラをつくり、貧困の連鎖を断ち切る」
 
こんな目標を掲げて、高校生にプログラミング学習支援とキャリア支援を無償で提供する認定NPO法人がある。平井大輝が理事長を務めるCLACKだ。
 
きっかけは自身の中学生時代にさかのぼる。家族が経営していた飲食店が廃業。そこへ両親の離婚が重なり、相対的貧困の状況に置かれた。

「高校では留学など、やりたいことを何でもできる同級生がいるなかで自分は部活の交通費も出せない。電気やガスも時々止まる。お金がない苦しさを味わいながらも、しんどいことを話せる人もいなかった。孤独でした」
 
それでも給付型の奨学金を得て国公立大学に進学。「自分と同じような境遇で理不尽な思いをしている子どもの力になりたい」との思いから、困難を抱える中高生の学習支援を手がけるNPOで3年間活動した。

精神的に不安定な母のもと、生活保護を受けながら弟や妹の面倒を見るヤングケアラーの子ども。勉強すると親から叱責される子ども。先天性の病気があって登校が難しい子ども──。喫緊の課題を抱える子どもが大勢いる一方で、対応人数には限界がある。加えて、「普通の子どもと同じスタートラインに立たせるための学習支援や、一時的な居場所支援だけでは培われないものがあると気づいた」という。

義務教育を終えた高校生たちが、困難を味わいながらも自ら未来を切り開く力を鍛えることこそ必要だ。そう確信した平井は2018年、大学を休学してCLACKを立ち上げた。

善意を仕組み化するための「触媒役」に

CLACKは現在、東京と大阪で自走支援プログラム「Tech Runway」を開講している。参加者は3カ月間、週2回のペースでプログラミングを学ぶ。各参加者には講師がつき、子どもたちが自力でウェブサイトやオンラインサービスをつくれる状態を目指してサポートする。また、キャリア支援として月に2回程度、これからの生活に必要なお金や進路、働き方のワークショップや交流会も開催している。

23年1月時点でプログラムの生徒数は200人を超えた。だが、日本の子どものうち7人に1人が相対的貧困にあるといわれるなか、「事業を仕組み化し、再現性を高め、各地域の団体や機関にどんどん使ってもらえるようにすることが不可欠だ」と平井は指摘する。

「僕は化学畑の出身で、そもそも組み合わせたり、つないだりするのが好き。世の中に余っているリソースを再分配し、善意を仕組みにするための触媒的な役割を担いたい」

ひらい・だいき◎1995年、大阪府生まれ。中学時代に両親の自営業の倒産と離婚を経験し、経済的な困難に直面。国公立大学に進学し、困難を抱える中高生の学習支援のNPOで3年間活動したのちNPO法人CLACKを設立。シチズン・オブ・ザ・イヤー2021受賞。イノベーシスト大賞2023受賞。

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文=瀬戸久美子 写真=帆足宗洋(AVGVST)スタイリング=千葉 良(AVGVST)ヘアメイク=KUNIO Kataoka(AVGVST)

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年10月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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