経営・戦略

2023.08.23 13:00

原点は対話。人事 兼 経営企画が語る物語の紡ぎ方|人的資本経営トーク#10

必要なのは「地に足の着いた施策」

経営企画と人事という前例のない「二刀流」に対し、「難しい部分もあったのでは?」と谷本氏が水を向けると、佐藤氏は苦労よりも反省の弁を口にした。

「それまで経営企画を中心にやってきたので、兼務を始めた当初は、人事の実務をよく知らないまま無謀な提案をして、現場を混乱させたことがありました」(佐藤氏)

これに対し、堀尾から「人事は経営と現場の接点ですから、経営戦略が実行されていなければ、不満の矢面に立つことになりますよね。佐藤さんは、経営サイドにも人事サイドにも立っているわけで、苦労は多いと思います。どうやって乗り越えてきたのですか」と質問が投げかけられた。すると佐藤氏からは、人事の原点ともいえる答えが返ってきた。

「私が強く感じたのは、現場の意見を聞き、現場の実情に合わせた、地に足の着いた施策を実行することの重要性です。

最近、人事制度の改定を行いましたが、その内容を社員に伝える際、一方的なメッセージにならないように意見を聞く場を設けました。堀尾さんが懸念されるように、正直、中には厳しい声も寄せられました。しかし、対話を重ねることで双方向の理解も徐々に進んでいきますし、結果的に経営戦略も社内に浸透していくと思っています」(佐藤氏)

もう一つ、佐藤氏が人事部で取り組んでいるのが、女性の活躍推進活動だ。人的資本経営を考えるうえで、組織として女性がいかに活躍できる風土や制度を整えられるかどうかは、重要な観点となる。住宅や建築の領域は男性社会のように思われがちだが、佐藤氏によると、エプコの男女比率はほぼ半々とのこと。

「当社は2005年からコールセンター事業を開始しましたが、シフト勤務であることや、短時間での労働が可能など、家庭を持つ女性にとっては働きやすい環境がもともとありました。さらに女性の活躍を推進するため、2023年1月には女性社員同士の交流や会社へ女性目線に基づいた提言などを行なう『ルミライズ』というプロジェクトを立ち上げました」(佐藤氏)

ここでも重視するのは対話だと、佐藤氏は語る。

「これまで会社に提言するような経験がなかった社員にとっては、自分ごと化するのが難しかったり、具体的な提案をまとめるところまでいかなかったりという壁があるようです。人事から活動の位置づけを説明し、社員からの意見も丁寧に拾うといったことを、地道に続ける必要があると思います」(佐藤氏)

コミュニケーション量が課題の解像度を上げる

続いて、テーマは人材ポートフォリオへと移る。

「当社の人材ポートフォリオには3つの軸があります。1つめは管理職として組織を経営する人材、2つめは建築やITの分野で高い見識を有する人材、そして3つめは社内外のステークホルダーと協調しながら円滑なオペレーションができる人材。採用や配置もこれに合わせて行なっています」(佐藤氏)

ここで堀尾が「市場も働き方も変化していくし、組織も以前ほどトップダウンではなくなっています。人事がそこにどう向き合うかを考えたときに、人材のポートフォリをしっかりと設計しつつも、キャリアを社員各自が選べることも重要なのでは」と指摘した。

「その点は重視しています。例えば、当社では成長領域の再エネ事業については、挑戦したいという意欲のある若手を積極的に抜擢していますし、それぞれの社員が自身のキャリアについて言語化できるように、人事がアシストしています」(佐藤氏)
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文=山口 学

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