ウクライナが勝利すれば、プーチンはお払い箱に
プーチンは2000年5月、民主化への移行を急速に進めようとした当時のボリス・エリツィン大統領に代わってロシアの大統領に就任した。しかし、伝統的に独裁主義者によって運営されてきた政府に、国民に権力を譲るよう求めるのは前代未聞のことだ。ロシア人は恐れられた指導者に従う。いわば、マキャベリ版の「力は正義なり」だ。プーチンは母なるロシアを愛していると思われている。だが、実際は脅しによって統治している。ブラウダーが指摘するように、下は交通警官から上は大統領まで、ロシアでは公職に就く者の多くが上前をはねる。こうしてプーチンは世界一の大金持ちになった。
この国の新興財閥オリガルヒは資金を握ってはいるが、本質的には大統領の「金融コンシェルジュ」だ。オリガルヒが生き残り、繁栄し続けるためには、従わなければならないのだ。
けれども、こうした統治がロシアを悲しい状態に追いやった。モスクワ郊外に15キロほど車を走らせればよくわかるだろう。未舗装の道路、疲弊した病院、設備の乏しい学校など……。プロパガンダが通用するのもここまでだ。国民が苦しんでいる一方で、超富裕層や政治的にコネのある人々は贅沢な暮らしをしている。文化的で教養のある市民が大勢いるこの国の悲しい現実だ。
プーチンは国内での抗争を避けるためにウクライナという外敵を必要とし、同国との戦争に突入した。だが、ウクライナを簡単に征服できると考えたのは誤算だった。プーチンの軍隊は今、数千人単位で死者を出している。
ブラウダーは「私が想像できるのは、プーチンに忠誠を誓う人々が、他の誰かに支持を表明することだ」と語る。「ウクライナが勝利すれば、プーチンは自分の命を失う。そうならないために、さらに100万人もの兵士を肉挽き機に放り込むだろう。理性的な人間ならとっくの昔にやめていたはずだ。ところがプーチンにとって、国益などどうでもいい。自分が生き残ることしか考えていないからだ。こうしてプーチンはすべてを犠牲にするのだ」
権力の掌握を維持するために、プーチンは面目を保つ方法を必要としている。それはウクライナが断固として反対する「平和のための土地」を含む可能性がある。ロシアは、欧米には持続力がなく、ウクライナが戦い続けるには限界があると想定している。ロシアの資金は来年の米大統領選挙でのトランプ勝利にも向けられているが、これは憶測に過ぎない。
世界的に見れば、ロシアの生命線である石油・ガス収入を断ち切ることが賢明な賭けだ。戦争を終結させ、ロシアが国際社会に復帰できるようにすることで、同国を長期的に救うことができるだろう。戦争が長引けばロシアの孤立は一層深まり、イランや北朝鮮と手を組まざるを得なくなる。そうなれば、英雄的で千里眼の持ち主というゼレンスキーのイメージが強くなる。プーチンはただ、時間稼ぎをしているだけだ。
(forbes.com 原文)