食&酒

2023.08.13 16:30

シャンパーニュに学ぶ「価値を高める」ブランディング

20世紀には、二度の世界大戦やフィロキセラ(ブドウ樹の生育を阻害し、枯死に至らせる害虫)の被害など業界にとって困難な時期もあったが、それを乗り越えシャンパーニュは着実に出荷量を増やしていく。1936年に原産地呼称シャンパーニュが制定され、1941年にはその呼称を保護するための「シャンパーニュ委員会」が設立された。

21世紀に入るとボトル出荷数が3億本を達成。2015年には「シャンパーニュの丘陵、メゾンとカーヴ」がユネスコ世界遺産に登録され、ツーリズムの面においても大きな進歩を見せている。
2015年にユネスコ世界遺産に登録されたシャンパーニュの丘陵。@Comité Champagne

2015年にユネスコ世界遺産に登録されたシャンパーニュの丘陵。@Comité Champagne


こうして歴史を振り返ると、シャンパーニュは様々なイノベーションの連続によって進化してきたものだということが分かる。これを踏まえたうえで、過去から現在そしてこれからにおける、業界としてのブランディング術を幾つかの視点から探っていきたい。

1. 名称保護とプロモーション戦略

1941年に設立した「シャンパーニュ委員会」は一般にはあまり馴染みがないが、シャンパーニュの発展はこの組織なしには語ることはできない。これはシャンパーニュ地方に存在するメゾンや栽培農家による半官半民の同業者組織で、「シャンパーニュ」の更なる価値向上と、世界規模での名称保護を目的としている。

この組織が市場の統制や名称保護のため偽造品や名称の悪用の規制を行い、さらに世界の専門家や教育者を対象としたエデュケーションの強化を図り、シャンパーニュの根幹を支えていることがブランディングを語る上での大前提となる。

また、シャンパーニュの高い知名度が背景には、大手メゾンによる巧みなプロモーション戦略があることも忘れてはならない。家族経営を貫いている少数のメゾンをのぞき、シャンパーニュメゾンの多くはM&Aにより大手企業の傘下に入っており、プロモーションへの莫大な投資が可能となっている。

「モエ・エ・シャンドン」を「クリュグ」をLVMHが傘下にもつなど、巨大コングロマリットが抱えるメゾンも多く、ファッション系ラグジュアリーブランド同様の華やかなプロモーションが世界規模で実施され、戦略的にファンを増やしている。

ベルサイユ宮殿や英国王室を魅了しながらシャンパーニュが発展してきたように、それぞれの時代において大きな影響力を持つシャンパーニュ・ラヴァーが広告塔となり、シャンパーニュの魅力をダイナミックに発信してきたことが、昔も今も知名度アップに貢献している。
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文=瀬川あずさ

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