日本の社会とスポーツ社会を分断する「透明な壁」問題
筆者が尊敬してやまない安田秀一さん(元アメリカンフットボール全日本大学選抜チーム主将、ドーム取締役会長 兼 代表取締役CEO)は、スポーツ界では知らない人のいない「アンダーアーマーブランドを日本に持ち込んだ漢」そして、日本のスポーツエコノミクス発展(まだ発展途上甚だしいとはいえ)における功労者の1人である。私にとってはアメフト界の先輩であると同時に「日本のスポーツ界をなんとかしなければ!」の問題意識を共有できる大先輩である。その安田さんが8月3日付日経新聞の記事で書いたことで、今回の主題に関連して、筆者の頭に残って離れない言葉がある。
「正しいガバナンスは、交通を機能させる信号機のようなものだ」
繰り返しになるが、日本の社会とスポーツ社会は見えない、ガラスの壁によって分断されている。今回の件を表現するなら、それぞれの世界には別個の信号機が存在していて、「スポーツ界だけ黄色信号の点灯時間が短い」のである。
このような事件を機に、一般社会における事件とスポーツ社会におけるそれが同じ基準、仕様の信号機で、同じように交通整理されることを期待したい。それには、スポーツ社会が今まで受けてきた「負の特別扱い」を自ら改めて社会へ歩みよるという行動が不可欠だが、その方法論は、別の機会に述べさせて頂きたい。
とにもかくにも、勇気を持って、「連帯責任は認めない!」という競技団体が出てきて欲しいと思う。
競技団体でも、学校でもいい。2023年の今の時代には到底そぐわない、問題の本質ではなく早期解決を図るためだけの連帯責任を、勇気を持ってやめて頂きたい。
同大がすでに処分発表をしていることはあるものの、安田さんの言葉も借り、筆者も勇気を持って、8月8日に行われる日大の記者会見の台本を以下、書いてみた。「筆者が理事長であれば……」という勝手極まりない仮説での言葉である。ご容赦願いたい。
社会をお騒がせして、申し訳ありません。今回は、該当の生徒のみの処分とさせて頂きます。なぜなら、彼のチームメイトは一切関係ないからです。そして、指導者もそのような指導は一切しておりませんので、処分の対象外とさせて頂きます。
この手のインシデントでは、活動停止や休部等の安易な答えに辿り着きがちですが、他の100人以上の部員には何も関係のないことでありますので、ご理解を頂きたいと思います。これに関する批判は理事長である私が受け続けます。それは、何の関係もない若者達の努力や希望を無にするより、100倍も1000倍もましであります。何卒ご理解ください。
──未来ある若者達に要らぬ絶望を与えてはならない。誰かの勇気でそれを防げないか。切に願う。