そして最後に「いまのシンガポールの若者の多くがモノを選ぶ基準は、ブランドよりストーリーなんです」と明言した。その言葉に「そうだよね」と知事の横で私が大きく頷くと、彼は私のほうを見て、10年前に会った時と同じ、少年のような笑顔を見せてくれた。
実は、シンガポールは、私にとっても思い出深い場所の1つだ。何より14年前に、観光、食、ものづくりを一体化した大規模なプロモーションを最初に行ったのがシンガポールだった。
そのときは、シンガポールの JNTO(日本政府観光局)に、岐阜県から職員を派遣し、異例の4年間も駐在させた。そして、大なり小なりのさまざまなイベントやキャンペーンを継続して行うなかで、本当に多くの人たちと出会い、助けていただいた。
人と人との付き合いや、モノやコトの交流の根底にあるものは、やっぱり、信頼関係の構築であり、そのために大切なのは、本物のサステナビリティの追求と具現化なのだ。「長くまじめに思い合い、続けてきたからこその成果」は、人種や言葉を超えて、確実に何らかの実を結ぶと私は考えている。
「観光の仕事は、旅をともにする人の人生をお預かりすることとなんだ」というのは、尊敬するシンガポールの訪日旅行会社の亡き会長の言葉だが、その想いをこれからも受け継いでいきたいと心底から感じている。
「ひさしぶりですね」「また、会いましょう」「また、会いたいですね」そんな言葉を、これからどれくらいの人たちと、交わし合えるか。気候変動や戦争など、まだまだ、不確実な世界だからこそ、いま、できること、大切なものを見極める必要がある。
だからこそ、まずはリアルに出会える喜びを噛み締めながら、目先の利益や結果だけにとらわれず、これからも、しっかりと長く、継続して、互いの持つ地域の資源を見つけ、磨き合い、感謝し、人生のなかで分かち合い、発信していくこと、これが日本のサステナブルなインバウンドによる観光再生への第一歩ではないだろうか。