人種問題や差別は人間の心に常に宿っている「闇」
松田:『ONI』のなかでカルビン君という黒人の男の子が印象に残りました。堤さんの過去のインタビュー記事を読んで、子どものころに仲が良かった黒人の男の子と喧嘩をしたときに「黒人であることをバカにするような発言をしてしまった」というエピソードが記憶にあったからです。堤さんご自身も、その後アメリカに渡ってアジア人として生きるなかで、マイノリティ側の経験をされた。ですから、カルビン君のモデルはかつての黒人の友だちでもあり、堤さんご自身でもあるのかなと思ったんです。
堤:おっしゃるとおり、カルビンのインスピレーション源は、僕が小学校から高校まで一緒に過ごしたアフリカ系アメリカ人の親を持った友人です。彼は体が大きかったので、喧嘩をすると腕力では勝てない。だからいま思えば差別用語ともとれるような言い方で彼の弱みを攻撃したことがあった。それがどういう意味なのかもわからずに。
自分がアメリカに来てわかったことは、人種問題や差別というのはアメリカが抱える問題というより、人間の心に常に宿っている闇だということです。自分がアメリカでマイノリティとして差別を受けると、相手に対して「なんだコイツは、悪魔のようなやつだ」と思う。でも、実は自分の中にもそういう闇があったことに気づくわけです。ああ、そういうことかと。
誰もが自分の中に闇も光も持っている。僕たちは、それらと向き合ってコントロールしていくことでしか前には進めません。「こいつは悪いやつだから」と相手を排除したところで、自分の中にある闇はなくならないので。
トンコハウスの堤大介監督
では闇と向き合うにはどうするのか。ものごとの「WHY」を芯からわからなければいけないのだと思います。例えば、障害者を排除してしまうという闇があるのだとすれば、「障害者」という言葉の意味をきちんと理解しない限り前には進めない。
そういう意味でへラルボニーさんがやっていることはすごいと思うのです。ステキだなとかお洒落だなという入り口から、障害のある人の作品や生活、もっと言えば彼らの思いに触れる機会をつくっているのですから。それは言葉の意味の“答え“を与えるということではなくて、一人ひとりが答えを得られるような機会をつくっていることだと思うんです。
僕が作品をつくる時も、こうした機会をつくることを大切にしています。僕らが出した答えを鵜呑みにしてもらうのは、ただのプロパガンダです。僕らのミッションは、好奇心を刺激すること。自分自身が普段考えていることを表現して、みんなと一緒に考えたい。それができれば最高です。
>>後編 マイノリティの優遇と逆差別。知的障害者の目にはどう写るのか