アート

2023.07.30 12:00

心の中に宿る「闇」をなくすために。ビジネス、アニメに何ができるか│松田崇弥x堤大介

Getty Images

松田:私たちは、障害のある人たちができないことをできるようにするのではなく、すでにできていることに社会的な価値と金銭的価値を付けています。私たちは才能ある人がフェアに評価される土壌をつくりたいのです。例えば、もしうちの兄に堤さんと同じような画力や構想力があったとしても、自分でプロジェクトを立ち上げて発表するのはハードルが高すぎます。
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だからといって「知的障害者はみんなアーティスト」というわけではありません。金沢21世紀美術館のキュレーターである黒澤浩美さんに当社のアート責任者として入っていただき、プロの目で認められた作品だけと契約しています。

原点は、新卒で入社した脚本家・放送作家の小山薫堂さんの会社での経験にあります。作品がデータとして納品され、経済が動くのを見て、知的障害のある人たちとIPとの相性の良さを感じました。

堤:僕は作品をつくる時に、なぜ僕がこの作品をつくらなければいけないのかという「WHY」にとことんこだわります。松田さんは「WHY」がしっかりしていらっしゃる。それはきっと小さい時からお兄さんのことを見ていて感じた「WHY」だからだと思うんです。
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すごいのは、その「WHY」の軸がぶれないまま「HOW」(=事業)につながっていて、それが元々の「WHY」を支えているところです。

僕らの世界には「WHY」がない作品がたくさんあります。「なぜ」を無視して、ただ単に「今流行っているので儲かるから」だと、人々の心に残らない。または「WHY」はあるけれど、それをどう伝えるかと言う「HOW」とうまくつながらなければ、そもそも作品すら観てもらえない。

松田さんご兄弟は「WHY」という軸のもとで「HOW」に対して、ものすごく勉強して知恵を振り絞ったのではないかと思います。このビジネスで“いける”と思ったのはどの時点ですか。

松田:創業して1年半は鳴かず飛ばずでした。最初はデータライセンスビジネスをやるとしか考えていなかったので、営業先でデータを見せて「こういう作品が何百点もあります」と紹介していたんですが、それでは全然商談が進まなくて。

だからイメージしやすいように作品をアパレルや雑貨などの形にしてブランド化しました。営業先にも、そのように形になった商品を見せるとヘラルボニーの世界観が伝わるようになり、事業もドライブしていくようになりました。人は見たことのないものや想像できないものは怖いんですよね。
次ページ > 「黒人であることをバカにするような発言をしてしまった」経験から

文=久野照美 聞き手=山本智之 編集=田中友梨

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