一足早く取り組んだ水素燃料電池だが
少し振り返ってみよう。10年前から、トヨタは燃料電池車のミライを販売しているけど、それよりも10年前には、実はホンダが燃料電池車のプロトタイプ「FCX」を試験車として一般道を走らせていた。と言うことで、その頃からのホンダとトヨタの水素に対する活動を見ていると、電気自動車(EV)ではなく、燃料電池車が「未来のクルマ」になると予想していたことがわかる。しかし、20年が経っても、水素を使う燃料電池車が主流になることはなく、EVがメインになろうとしている。
その理由は、やはり車両価格が比較的高いこと。そして、水素ステーションというインフラがまだ未熟で、水素の補給はガソリンより時間かかるので、ミライの販売台数は10年で2万台強と、トヨタが期待したほどは売れなかった。
実は、日本には水素給油ステーションは2023年7月現在、165カ所以上あるけど、いつ、どのステーションの前を通っても、水素車は一台も止まっていない。と言うことは、あれだけの投資をして、あれだけの施設を用意しても、実際に水素ステーションを使うクルマはほとんど無いと言うことだ。
一方、ホンダの場合、7年前に発売開始になった燃料電池車の「クラリティ」はほとんどと言っていいほど売れなかったので、販売をやめた。
水素社会が進歩しない理由はまだ他にもある。水素の製造に消費されるエネルギーが高いことや政府からの資金援助や支援が乏しいことなどから、大多数のカーメーカーは水素から目を背けており、水素革命がさらに拡大するのを阻んでいるのが実情だ。
ドイツのフラウンホーファー・システム・イノベーション研究所(ISI)のパトリック・プレッツ博士は水素の未来性について、「水素はクルマではなく、産業、海運、合成航空燃料において重要な役割を果たすだろう。しかし、一般の乗用車に関しては、水素技術が追いつくのを待つことはできない。今、我々が注目すべきは、旅客輸送と貨物輸送の両方におけるバッテリー電気自動車である」と言う。トヨタなどは賛成しかねる見解だろう。
さて、世界の今の状況がわかるように、水素燃料電池車vsEVの比較をしてみよう。2022年初めには、水素燃料電池車が約25000台は世の中に出回っていたし、FCEVは2モデル(トヨタ・ミライとヒョンデ・ネクソ)の購入が可能で、世界中で約540カ所の水素充填ステーションが稼働していた。
対照的に、2022年の初めまでには、世界中で約1500万台のEVとプラグイン・ハイブリッド車が全世界の道路を走行していた。現在、すべてのカーメーカーがこのような自動車を販売しており、世界で400以上のモデルが販売されているのは事実。
アトキンソンがあれだけ熱心に水素を支持するのは偉いとは思うけど、やはり、各国の政府機関やユーザーの水素社会に対する考え方を変えない限り、残念ながら水素は、燃料としてなかなか進展しないのではないだろうか。