国内外から多様な人が集まる観光地として名を馳せる京都。2023年の文化庁移転に伴い、文化発信力もさらに高まっている。歴史に紡がれたカルチャーを基盤に、古都のリーダーは、さらなる飛躍のため次の一手を打つ。
起業家を支え、海外のビジネスパーソンを惹きつけるスタートアップ・エコシステム。そして、新産業の勃興を導くオープンイノベーション──西脇知事が語るキーワードの先に、未来のKYOTOが見える。
マラソンで山中教授と意気投合
山紫水明の地を、知事が走る。これまで完走したフルマラソンは15レース以上。「あなたが最も燃える瞬間は」という問いに、西脇隆俊は「スポーツに没頭しているとき」と即答した。「やはり、タイムが出るから取り組み甲斐があるんですよね。ただジョギングしろ、といっても心を燃やして走れるものじゃない。ゴールがあるから、タイムという評価軸があるからこそ、完走できるわけです。課題があるから取り組む。遅滞しているプロジェクトがあれば改善する。困っている人がいたら、救済の手立てを考える。ゴールに向けて、課題を解決しながら走っていく。マラソンというスポーツは、私の性格に実にマッチしているのです」
東日本大震災では復興庁の事務次官として前例のない災害復興に取り組み、困惑する被災者の救済にあたった。知事となってからも各地を駆け回り、現場主義を貫く。課題があれば、解決に向けて走る。その姿勢が、オフのマラソン挑戦とも重なる。
このランが、京都アカデミアのキーパーソン・山中伸弥(公益財団法人 京都大学iPS細胞研究財団=以下、iPS財団 理事長)との邂逅につながる。
京都府と京都市は、iPS財団の活動をはじめ、京都府内で再生医療などの技術開発を行っている企業を支援するため、2020年からクラウドファンディング型のふるさと納税を開始した。集まった寄付金はiPS財団に提供するほか、府が実施する社会課題解決に取り組む企業の支援事業に充てられている。
「これまでの寄附総額は1億2千万円を上回っており、大きな成果につながりましたが、この発端はマラソンです。2018年2月に開催された京都マラソンで山中教授と出会い、対話したことから生まれた取り組みなのです」
iPS財団との協業を支えたのは、産学公のスムーズな連携だ。これこそ京都府のストロングポイントだ、と西脇は言う。京都は大学や研究機関が集積する。人口に対する学生数の割合は全国一であり、まち全体が学びのフィールドとして機能してきた。
「京都は学生のまちと言われますが、2022年度での調査では大学生の数が16万6137人。人口に占める割合が6.5%ですから、京都府民は約15人に1人が大学生ということになります。これは全国トップの数字。人材輩出の面からも明らかで、京都ゆかりのノーベル賞受賞者は11名おられます。京都はさまざまな領域の学術研究をリードしてきたのです」
内外から集まる学生のパワーは、製造業を中心に意欲的な起業を導いた。京セラやニデック(旧日本電産)、任天堂、村田製作所、オムロン、島津製作所など、京都から生まれたものづくりの雄は数多い。先端技術を育んだ京都の風土について、さらに掘り下げて聞いていこう。