サマーダボスで注目を集めたテーマのひとつがAI(人工知能)だ。世界経済フォーラムが6月26日に発表した「2023年 新興テクノロジー・レポート トップ10」では、生成AIが「今後3~5年で世界に最も影響を与える新興テクノロジー」の2位にランクインした。
本レポートでは、生成AIは「教育や研究、その他の分野にも応用され、複数の業界をディスラプション(創造的に破壊)することになるだろう」と指摘している。一方、ChatGPTが世界を席巻するなか、AIの活用については各国で議論が沸き起こっている。
果たして、私たちはAIとどう向き合うべきなのか。サマーダボスで行われた2つのセッションの様子をお伝えする。
生成AIは敵か? 味方か?
初日に開催されたセッション「Generative AI: Friend or Foe?」(生成AI:敵か味方か?)では、スロベニアのデジタル変革大臣エミリヤ・ストイメノヴァ・デュフ、香港科技大学電子コンピューター工学科主任教授のパスカル・フォンなどAIに詳しい産官学のリーダー5人が登壇し、教育分野をはじめ生成AIが社会や未来に与える影響などについて議論した。スロベニアのデジタル政策を担うデュフは「AIは大きな可能性を秘めている。恐怖心がイノベーションに支障をもたらしてはならない」と強調したうえで、AIを教育現場に導入することへの懸念を表明。さらに「AIは私たちがすでに持っている固定観念や偏見を増長させる可能性がある」と指摘し、解決策を見出す必要性を訴えた。
一方、Learnable.ai会長のワン・グアンは「生徒と教師の間には感情的なやりとりが発生し、教育そのものは単純にAIに代替できるものではない」としながらも、生徒の宿題の評価や個人指導などにおいては「AIが素晴らしい役割を果たすことができる」と述べた。
では、AI時代の教育とはどうあるべきか。AI関連で多くの研究成果を挙げてきたフォンは、「私たちが訓練する必要があるのは、未来の人間がより“人間的”であること。すなわち批判的思考をより深め、より人文科学的であることだ」とし、「歴史や哲学、倫理学、芸術などを多く取り入れたカリキュラムの復活」を提唱した。
「今日の教育システムは(エンジニア、倫理学者など)サイロ化されているが、将来的にはサイロ化は成立しなくなる。私たちは基本に立ち返り、若い世代が“ルネサンスな”男女になるように教育する必要がある」(フォン)