海外

2023.06.26 12:00

脳細胞から作る「バイオコンピュータ」でNVIDIAを目指す35歳

製薬会社との提携を視野に

コーティカル社は、人間の皮膚や血液から取り出したヒト幹細胞由来の脳細胞を微小電極アレイ上で培養してつくった「ディッシュブレイン」と呼ばれる生体チップの商業化を目指している。

ディッシュブレインに卓球ゲームを学ばせるために、彼らは昨年、このチップをゲームを実行するコンピュータに接続し、電気信号を送って画面上のボールの位置やパドルからの距離を伝えた。すると、ディッシュブレインは自分でパドルの動かし方を判断するようになり、フィードバックを重ねるにつれてゲームの腕前を上達させた。チョンは、このチップが既存のコンピュータの中央処理装置(CPU)の働きをすると述べている。

コーティカル社が開発中のバイオコンピュータは、神経疾患をターゲットにした薬剤の有効性や副作用のテストに役立つという。チョンは将来的に、バイオジェンやイーライ・リリーなどの大手製薬会社との提携を目指している。

コーティカル社に出資したホライゾン・ベンチャーズで、AI関連の投資を指揮するジョナサン・タムは、書面のコメントで次のように述べた。「彼らのバイオコンピュータは、短期的には薬がニューロンにどのような影響を与えるかについて洞察を与えることができる。また、長期的にこれらの人工ニューロンは、私たちの脳がどのように機能するかについて前例のない洞察を提供し、これまで解決できなかった神経疾患の治療への道を開くだろう」

さらに、バイオコンピュータは、電力コストの削減にも役立つとチョンは述べている。AIの学習には大量の電力を必要とするが、ディッシュブレインは、既存の技術に比べて消費電力が少ないという。

若き起業家の2回目のチャレンジ

チョンが野心的なプロジェクトを追求するのはこれが初めてではない。彼は、メルボルン医科大学の学生だったときに、スマートフォンに接続可能な低価格の聴診器を開発した。

そして卒業後の2014年にCliniCloud(クリニクラウド)と呼ばれる企業を設立し、この聴診器を商品化した。同社は、中国のテンセントや中国平安保険の投資部門からの出資を受けた。しかし、トランプ政権下の米国の医療制度の見直しなどの影響で、同社の事業は2018年に消滅した。

その時すでに、チョンはAI分野に軸足を移していた。グーグルのディープマインドによる研究論文に触発された彼は、2019年にコーティカル社を設立。「人間の脳細胞を使ってAIシステムを構築する」というビイジョンを掲げた同社は、母国オーストラリアの有力VCであるブラックバード・ベンチャーズから100万豪ドル(約9600万円)のシード資金を調達し、その後シンガポールに拠点を置くJanuary Capitalを含む投資家から120万シンガポールドル(約1億3000万円)を調達した。

ここ最近のAIブームの中で、チョンは多くの企業からの問い合わせを受けている。そのうちの1つは「脳細胞にビットコインの取引を学習させられるか」というものだったとチョンは笑いながら話した。彼はそのアイデアを否定せず、ソフトウェア・コードの提供を申し出たという。

「多くのアイデアは、最初は本当にバカバカしく聞こえるものだが、それが実際にどこに行くかは誰にもわからない」と彼は話した。

forbes.com 原文

編集=上田裕資

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